銭湯
せおぽん
銭湯
湯船から上がり、脱衣場にある冷蔵庫から左から2番目のビン牛乳を取り出す。理由は無い。そう決めているから、そうしている。
冷たい瓶の感触を手の平で感じるのは心地いい。カリカリと爪をたてて、瓶牛乳の蓋をとる。綺麗に蓋が取れると嬉しい。腰に手をあてて、瓶を口につける。空を見上げるように瓶を傾けると冷たい牛乳が流れてくる。冷たい液体が喉を通り、食道を通るのがわかる。火照った身体の中心に冷たい液体が通る快感は、俺は生きている!という実感がある。だから皆、風呂上がりの瓶牛乳をやめられないのだろう。
脱衣場を見渡してみる。ハゲて太ったオジサンがパンツをぐいっとあげた。ぷるんっ、と腹が揺れる。俺もきっと、ああなるんだろう。と、腹をつまむ。
番台に座る目つきの悪い婆さんが、睨んでいる。婆さんは目が悪いだけで、話しかけてみれば気の良いおばあちゃんだ。時々、飴ちゃんをくれる。
今日も昨日と同じ。きっと明日も同じだろう。
銭湯から出ると、風が冷たい。
身体が冷える前に、早く家に戻ろう。
空を見上げれば、星が瞬いている。
俺は満たされている。俺は知っている。
変わらないで良いことが充実だと知っている。
銭湯 せおぽん @seopon
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