ガラスの庭

perchin

ガラスの庭

 通学路の脇に、古びた洋館が建っている。

 その二階の窓辺には、いつも一人の少女が座っていた。

 窓枠に切り取られた彼女は、豪奢な人形のようだった。色素の薄い肌に、滑り落ちるような黒髪。ガラス玉めいた瞳は、常にどこか遠くを映している。

 少年はいつしか、登下校のたびにその窓を見上げるのが日課になっていた。

 初夏の日差しがアスファルトを焼く朝だった。

 洋館の庭に、少女の姿があった。

 彼女は溢れんばかりに咲き誇る花々の中に埋もれ、白いワンピース姿で佇んでいる。

 少年は足を止めた。  陽光を透かす彼女の姿は、周囲の極彩色の花よりもなお、鮮烈に白かった。

 少年は鉄柵に歩み寄り、乾いた唇を開いた。

「……こんにちは」

 少女は反応しない。花弁を指で弄びながら、何かを呟いている。

 少年は鉄柵を握りしめ、もう一度、声を投げた。

「あの」

 少女の手が止まる。

 ゆっくりと顔を上げ、少年を見た。

 そして、笑った。

「あはははははは」

 何の脈絡もなく、 歓喜も悲哀も含まない、純粋な音だけの笑い声。

 鈴を転がすような美声だった。

 だが、少年を見つめるその大きな瞳は、焦点が合っておらず、底のない空洞のように虚ろだった。

 美しい器だけが、そこにあった。

 「白痴……」

 少年は鉄柵から手を離した。

 熱病が急速に冷めていくのを感じながら、彼は背を向け足早に歩き出した。

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