SPARC

たけ林

プロローグ 静かな火種

 夕焼けに染まった校舎は、いつもより静かに感じた。

 坂本蒼さかもとあおは手すりに肘をかけたまま、沈んでいく夕日をぼんやりと眺めていた。


 ──何かがおかしい。

 胸の奥から出かかっている違和感は、今日も消えなかった。


 最近、街の電光掲示板は同じ政府広報を流し続けている。

 急に設置された監視カメラは、誰が見たって増えすぎていた。

 学校の先生たちの言葉にも、どこか"無理やり明るく振る舞っている"感じがある。


「蒼〜! 行くぞー!」


 階段下から声が聞こえてきた。声の主はクラスメイトの種元結人たねもとゆいとだった。

 彼の手にはデモのプラカードが握られている。


「デモって……ほんとに行くのかよ」


「当たり前な。最近なんかおかしいしさ。声あげなきゃ変わんないんだろ?これ。」


 結人の軽いノリに、蒼はため息をつく。

 けれど、その"何かがおかしい"という感覚だけは蒼も同じだった。


「……少しだけだぞ?」


「お、来てくれるの!? 蒼がノってくるとかレアだな!」


 二人は校門を出て、人の波が集まる中心街へと向かう。

 夜になりかけた空の下、手作りの看板と声が揺れていた。


 思ったよりもかなり規模が大きい。

 学生、会社員、親子連れ……色んな人が、政府への疑問や不安を訴えている。


 蒼はその光景に、なぜか胸が暑くなった。


 ──自分だけではなかったんだ。

 あの違和感を抱えていたのは。


 けれどその安心は長く続かなかった。


 広場の奥、暗闇の向こうで、重い足音が揃って響いていた。

 不意に、街灯がひとつ、またひとつと消えていく。


 蒼は嫌な予感に肩をすくめる。


「結人……なんか、雰囲気変じゃないか?」


「え?あー……確かに。なんだろ。」


 ザワつく人々。

 押し寄せるような緊張。


 暗闇が広がった一瞬、蒼はほんの1秒だけ、"取り返しのつかない何か"が迫っている気配を感じた。


「え……?」


 その感覚を最後に、世界が白く途切れる。


 ──次に目を開けたとき、蒼はもう別の場所にいた。


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