あなたの声があまりにも優しすぎたから
灯花
第1話 将来の夢
若いころから恋愛がうまくできなくて、もういいやなんて思っていたの
そう思っていたのに…、初めてあなたの声を聞いた瞬間に揺らいでしまったんだ…
あなたの声があまりにも優しすぎたから…
春先、花粉が多い季節。桜が満開で、心地いい春の陽気に誘われて、私達も家で花見をしていた。
『将来の夢は何ですか?』
テレビには女性と小さな女の子映っている。
マイクを持つ女性が屈みこんで、まだ真新しい制服を着た子供にマイクを向けて問いかける。子供はというとマイクが自分に向けられて、カメラが回っていることを理解したのかちょっと目を丸くさせて固まってしまい口をへの字に曲げてしまった。
すぐに女性が子供の背中をトントンして落ち着かせたが、恥ずかしいのかすぐにしゃべろうとはせず、女性とカメラに交互に視線を変えてもじもじしている。
『恥ずかしいのかな~?大丈夫だよ』
その女性の優しい声に安心したようで、子供の表情が緩んだ瞬間に大きく息を吸ってから
『お母さん!』
と、子供が大きく口を開いて放った。
マイクを持った女性の目が丸くなっており、子供はえへへとあどけない笑顔を見せる。
子供が言い終えたところで映像は停止した。
「ほらー!この時の雪花ったらめっちゃくちゃ可愛くて、それに…面白かったんだから!」
「もう…香織ってば!見せたいからって20年も前の映像をわざわざ引っ張り出さなくていいのに!」
「この前みんなで昔の映像を持ち寄ろうって話していたんだから、この機会を逃しちゃダメでしょ!
そりゃ家の中を家宅捜索するくらい意気込んでやるに決まってるでしょ!」
誰が自分の家の家宅捜索を自分でやるのよ…と心の中で突っ込んでみた。(きっと香織に何言ってんのって背中をバシッと叩かれる予感がしたから)
元気よく『お母さん』と言ったのは、かつての私だ。小学校へ入学したての頃に地元の放送局がやってきて、私たちにインタビューした映像を友達の香織がずっと持っていたのだ。
私は、この映像のことを覚えていなかったけれど香織から耳がタコになるくらい『入学した後の映像で懐かしくて面白いものがある』と聞いていた。
人のことを面白おかしく言うのはやめてもらいたいところではあるが!
実際に映像を見たら、鮮明に過去の記憶がよみがえってきて頬が熱くなるのがわかった。お母さんって何、他にも夢があるでしょ!おもちゃ屋さんとか花屋さんとか!!
当時の私よ!面白さを取ろうとするんじゃないよ、さほど笑えるものでもないのよっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます