好意はいらない
shiruhu_
第一話
中学生生活最後の冬を越し、今日は卒業式だ。
クラスや学年の皆は昇降口前で写真を撮ったり、この後の予定を決めている最中だろう。
そんな中…
「付き合ってください!」
僕は人生で初めて告白というものをしていた。
「え…あ、ご、ごめんなさい」
そう言って彼女はその場を後にする。
僕は空を見上げ立ち尽くし、涙を流す。
僕の最初で最後の恋が終わったのだ。
「行きたくねえな」
目覚まし時計が鳴り響く部屋で布団にうずくまりながら呟く。
「今日入学式でしょ?早く起きな〜」
目覚まし時計を止めないでいると姉が部屋の中に容赦なく入ってきた。
「プライバシー権を主張する」
「家族の間にそんなものはない。早く起きないとお母さんにフラレたこと言うよ?」
「え!?」
その言葉を聞き咄嗟に起き上がる。
「なんで知ってんの!?」
「全知全能の姉は何でも知ってるんだぜ?」
「え、結構真面目な話なんだけど」
「まあまあ、ええじゃないか」
「幕末やめてね」
「終わった」
僕はそこに立ち尽くし、言葉をこぼす。
ここは比較的偏差値が高く、僕の家から徒歩十分のところにある県立高校。
そして僕は現在、クラスと名前が書かれた紙を見て絶望していた。
いやわかるよ?
この高校の裏には僕が通ってた中学校があるし、何人か見知った顔が同じクラスなのはわかる。
だけどさ…
「これから僕はフられた相手と一年間同じクラスか…」
「綾人は部活どこは入るの?」
放課後。
僕は中学校からの知り合いである尾前件と廊下を歩いていた。
「今は文芸部かオカ研」
「どっちも部活として機能してねじゃねえか!一つは部活ですらないし」
「うるさい。僕は内申点さえもらえれば何でもいいんだよ」
「お前なあ、入るとこによっては貰えるものももらえないぞ」
それはそうかもしれない。
「尾前はどうなんだよ。入るとこ決まったのか?」
「アニ研」
「お前それで僕にグチグチ言ってきてたの?」
アニメ研究会に入るやつが僕が絞りに絞った二つの部活をバカにしてきたと思うと腹が立ってきた。
「だいたいお前中学の時はサッカーしてたじゃん」
「お前と違ってちゃんとした部活だし、それに…」
尾前は窓越しにグラウンドを見て言う。
「理由ができた」
理由ができた。
これはもはやこいつの口癖だな。
「なるほどな」
こう言った時は大体、言いたくないことやまだ言えないことがある時だ。
だから僕はあっさりと納得する。
「じゃあ、俺も入ろうかな。アニ研」
「は!?」
うるさっ
「声でかい。なんだよ」
「いや…うーん。まあいいか」
なにか悩んでいるようだが今は聞かないほうがいいか。
次の日。
僕はアニ研の部室の前に立っていた。
「こんにちは」
ドアを開けながら挨拶をする。
視線が三つ。
先輩と思われ、ソファに寝そべりせんべいとクッキーを重ねて食べている人。
座っている尾前。
それに向かい合うように座っている陽晴結愛。
「失礼しました」
僕は速攻でドアを閉めその場を去ろうとした。
「おいおい、まてまて」
僕が一歩を踏み出した瞬間腕を捕まれ、静止させられた。
「離せ尾前」
「まあまあ一旦落ち着けって」
尾前はドア越しに話を聞かれないよう小声で言う。
「落ち着くもなにもないだろ!」
僕もそれに合わせ小声で怒鳴る。
陽晴結愛。
僕をフった人だ。
「いったん中、入りませんか?」
僕達が言い争っていると陽晴結愛がそう言ってくる。
今、自分が争いの火種になっているとも知らずに。
「…」
無言。
部屋にはそんな僕達を嘲笑うかのようにアニメのエンディング曲が流れていた。
こうなるのを避けたかったから逃げたのに…
最悪だ。
「なにしてんのお前ら」
静寂を破ったのはエンディングを見終わったひとつ上の先輩と思われる女性だった。
「先輩、ちょっと耳貸してください」
尾前が手招きしながら言う。
おそらくなんでこんな事になっているかを耳打ちするのだろう。
あまり軽く広めないでほしさはあるが、この状況からいち早く脱却するためだ。
致し方ない。
「なるほど、それは…まあこうなるか」
「助けてください」
まるで自分がこの状況に巻き込まれた側の人間だという振る舞いだな。
尾前。
元はと言えば尾前が僕のことを引き止めなければこんなことにはならなかったんだぞ。
「そういうことなら…」
先輩はリモコンを持ち、僕達に向けて突き出す。
「アニメ研究会式ゲーム、しようか」
アニメ研究会式…ゲーム?
「説明しよう!」
僕達が戸惑っていると突如として説明が始まる。
「これからとあるアニメの一部シーンを一緒に見てもらう。
そこから次に起こることを予想し、当ててもらう」
アニメ研究会式って何のことかと思ったけど…
うん、典型的なアニメクイズだな。
「りょ、了解です!アニメは初めて見ますが頑張ります!」
陽晴さんが意気込んで言う。
「俺達も頑張ろうな」
「尾前、うるさい」
「じゃ、流すよ」
そういい、先輩はまたもや唐突に再生ボタンを押す。
そうするとテレビにはとある家が映り始めた。
「旭ーもう出ないと遅刻するわよー」
これは…朝のシーンだろうか。
「はーい。後ちょっとだから待ってー」
私は三山旭、今日から高校一年生!
中学生の時は友達とかあんまりいなかったけど、長かった前髪も切って、美容にも気を使って、私は今日から変わるのだ!
「おはよ!お母さん」
お母さんは私の方を見てジェスチャーでグッドサインをくれた。
「ありがと!」
私は持ち物の最終確認をした後、ローファーを履きドアを開ける。
これから私の高校生活が始まるのだ!
「いってきます!」
「はい、ここでストップ」
先輩がボタンを押し、アニメをストップさせる。
「わー、旭ちゃん可愛かったですね」
「そだね。しかもめっちゃ背景綺麗だった」
感想、言ったほうがいいのかな。
しかし…
「顎さん…か」
僕はため息混じりに言う。
「顎さん?って誰だ」
「ライトノベル作家。原作のとこに名前が出てただろ?」
「そんなとこまで見てねえよ。で、その人がどうしたよ」
ライトノベル作家、顎。
上げて落とすのが大好きな変態と言われている。
僕も何作品か買ったがそのどれもが胸糞や鬱展開。
「途中からマジで読むのが辛くなってくる」
「なるほど…」
「じゃあ普通の考えは捨てたほうがいいってことか」
「だな」
普通ならこの後主人公の高校生としての新しい日常を想像したが…何しろストーリーを考えている人が人だからな。
それこそ急に車に轢かれるとか全然ある。
「それじゃあ、皆の考えを聞かせてもらおうか」
「それじゃあ俺から」
トップバッターは尾前か。
「俺は道端に出た瞬間に主人公がトラックに轢かれると考える」
「ほう!その心は?」
「勘です」
全然ありそうな尾前らしい回答だ。
「じゃ、次いきます」
尾前がトップバッターをしてくれたおかげで大分気楽に言える。
「僕は主人公が見てる母親も制服も幻覚だと考えました」
「…その心は?」
「いくつかありますけど、まず最初に時計ですね」
「時計?」
「はい。主人公が制服に着替えている時に六時十分を指していましたが家を出る時も六時十分を指していました」
「フィクションなんだし曖昧なところはあるんじゃないのか?」
確かにその説もあるが…
「それはないかな」
「言い切るんですね」
「明らかに時計が目に入る画角で描写されてたので」
さらに言えばほとんどのシーンに時計が映り込んでいた。
これは意図的以外の何物でもないだろう。
「き、きめえ」
「…すごい」
後で尾前は殴る。
決定事項だ。
「じゃあ最後はお嬢さん」
「はい!」
さて陽晴結愛、君は何を見てどう考える?
第一話 初恋とアニ研と
好意はいらない shiruhu_ @shiruhu4011
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