音楽が禁止されている国で音楽を復活させよう!

結菜

第1話 不思議な子と消えたメロディ

「おっはよ~!」

こう言っているのは結城紅葉、16歳。


「あぁ、おはよ。」

そう冷たく返すのは花山雪兎。紅葉と同い年だ。


「なんだ、雪兎元気ねーな!」

そう言いながらバンッと雪兎の背中を叩くのは結城哲男、紅葉の兄で17歳。

三人は普通の高校生――のはずだった。

ただ、この国、葉理王国は少し変わっている。


「ねぇねぇ、昨日のニュース見た?なんか歌った人が捕まったんだって!」

紅葉が雪兎に話しかける。


「見た見た。本人は歌ってる自覚なかったらしいからね。気をつけないと」

雪兎が答える。


紅葉は思わずため息をついた。

(この国では音楽が禁止されてるから、ほんとに気をつけないと…)


「そうそう、先王が娘に変な音楽を聴かされて怒ったとか、そんな噂があるらしいぜ」

哲男がにやにやしながら言う。

「まあ、俺達には関係ない話だけどな」


「そうそう、音楽で思い出したけど、先王の時代の40年くらい前までは『音楽』の授業があったらしいぜ。だからお父さんやお母さんは知ってるんだって」

哲男は抜けてるが、紅葉よりもこういう話に詳しいところがある。


「嘘だぁ」

「嘘つけ」


紅葉も雪兎も信じない。

それくらい音楽は現代の子どもには遠く、存在しそうで存在しない、全く未知のものなのである。


時は放課後。

哲男はバスケ部、雪兎はテニス部の練習があるため、紅葉は一人で下校していた。


「暇だなぁ…なんか面白いこと起きないかな」

紅葉が呟いたその瞬間、耳に届いたのは――


♪~♫~♫♪~


話し声でも、風で草木が揺れる音でもない、不思議な音。

胸がざわっとする――けれど、どこか懐かしいような、知らないはずなのに懐かしいような感覚に紅葉は興味を惹かれた。


キョロキョロしながら音のする方へ進むと、南川の河川敷にたどり着いた。

そこには6歳くらいの少女が、細長い木の筒に穴が空いたものを手にしていた。

少女は口を筒に近づけ、手で穴を塞いだり開けたりしながら、不思議な音を奏でている。


紅葉が近づくと、少女は木の筒を下げてこちらを見た。

大きく、きらきらした目で。


「なぁに、おねぇさん」


「えっと、何やってるの?それに…お名前は?」

紅葉は早口で自己紹介する。

「あっ、私は紅葉っていいます!」


少女は首をこてっと傾け、笑顔を見せた。

「かのんのこと?かのんはね、涼風花音っていうの!」


紅葉はその笑顔を見て、忘れかけていた何かを思い出す。


「花音ちゃんは何やってたの?」

「これね、『ふえ』っていうんだよ!きれいな音楽が奏でられるの!」


紅葉は感心する――けれどすぐに思い出す。

(この国では音楽が禁止されてるから、これはかなり問題…)


あたりを見渡すと、他に誰もいない。少しほっとしたが、もし誰かに見られていたら…と不安になる。


「花音ちゃん、この国では音楽が禁止されてるから、それ、使っちゃだめだよ」

紅葉が注意すると、少女はしゅんと肩を落とす。

「そっかぁ…」


小さく呟く花音。

「むかしはもっと自由だったのに…」


紅葉は不思議そうに首をかしげた。

(この子、なんだか普通じゃない…?)


そのとき、上の方から哲男の声が聞こえた。

「お〜い!紅葉!何やってんだ?」


紅葉が顔を上げると、哲男が天端に立って手を振っている。

「今日の部活なくなったんだ!これから一緒に帰ろうぜ!」


「あっ、うん!もちろん!」

紅葉は答えながら、花音のことを思い出す。


しかし振り返ると、そこには少女の姿はもうなかった。

辺りを見渡しても、どこにもいない。


「どーしたんだ?なんかなくしものか?」

哲男が降りてきて、紅葉を見つめる。


「あの…さっきまでここにいた女の子が消えちゃって…」

「は?俺がお前を見つけてからここに来るまでの間、女の子なんて一緒にいなかったぞ?何言ってんだ?」


紅葉は驚きで固まった。

(はじめから、いなかったのかな…)


哲男の言葉に仕方なく納得し、二人は家路についた。

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