血乱れの狂奏曲
ヴィラ・トイフェル
プロローグ
――中学三年生で俺の未来は潰えた。
不運な交通事故。大けがで済めばまだ良かった。
後遺症として残った左手の麻痺は将来ヴァイオリン奏者として期待されていた俺の未来を簡単に消し去ってしまった。
あの事故から2年経って高校二年生になった俺は、左手の回復を完全にあきらめていた。
――諦めるしか、なかった。
完全麻痺ではなく不全麻痺とはいえ、リハビリを何度繰り返しても、ヴァイオリンを弾くにはその左手の動きはあまりにも鈍く、可能性すら抱けなかった。
「――なぁ、月城、聞いてるか?」
「ごめん、何だって?」
「月城、あれ当たったんだろ『Infinite Ravel Online』。俺は発売日からだから、なんか困ったら手伝うぜ」
俺の名前は月城 奏、なんの取り柄もない人間だ。ただクラシック音楽に少し詳しいだけの人間となってしまった。
話しかけてきたこいつは玉置 大我、前の席から完全に体をこちらに向けている。
いつもこんな調子だ、特別親しい仲でもないのに左手が不自由な俺のことを気にかけてくれる。
「おい、玉置!あと少しで夏休み前の会合終わるから、前向いて話聞けよー」
「はーい」
先生に怒られて玉置は席にちゃんと座りなおした。
玉置がさっき言ってきたのは先月発売されたフルダイブ型MMOの『Infinite Ravel Online』、通称『
抽選の倍率があり得ないほど高く、店売りも発売から一瞬で完売し、第二陣でもかなり倍率が高かったのだが俺はそれを突破して買うことができた。
今日の学校が終わり家に着いた瞬間、夏休みとともにゲームが始める算段だ。
普段、玉置がとても楽しそうにゲームの話をしてくるので、俺はこの日を楽しみにしていた。
「よし、今学期の会合はこれで終わり。学校がないからって夏休みに生活リズム崩さないように気をつけろよー」
絶対に無理なことを言ってるな。
「月城、俺のIDこれだからフレンド申請送っておいてくれな」
そう言ってIDの書かれた紙を渡してきた玉置は俺の返事を聞く前におそらく部活の人達に連れていかれた。
俺は終業式後に打ち上げするような友人は持ち合わせていないし、急いで帰ろう。
「ただいま」
――返事はない。母さんをあの交通事故で失い、父さんは無事だったものの仕事ばかりであまり帰ってこない。
ここ一か月で父さんが家にいるところを4回しか見ていない。
時計を見ると、11時半。12時に届くはずのゲームよりもちょっとばかり早く家についてしまった。
電気のついていないリビングに行く。
カーテン越しに射す光だけが家のリビングを照らしている。
ふと、部屋の隅に寝かされたヴァイオリンケースが目に入った。
ケースから取り出し、以前のように構えて弓を引いてみる。
しばらく手に取っていなかったことで完全にずれた音がなり、思わず笑ってしまった。
左手で弦を抑えようと力をいれる。
力を入れた左手は思うように動かず、少しずつ時間をかけて中指が弦に触れた。
「っく、やっぱり無理だな」
床に置いたヴァイオリンを、俺はしばらく見下ろしていた。
――ピンポーン
意外と早く来たな
ピッ。
「宅配でーす」
宅配の人から段ボールを受け取り、自分の部屋まで駆け上がる。
段ボールをあけ、フルダイブ用のカプセルにソフトをセットする。
時計を見る。12時10分。
カプセルのタイマーを連続使用可能時間ぎりぎりに設定し、中に入る。
「よし、準備完了と」
カプセルが閉まるとゲームが起動し、音楽が流れ始めタイトルロゴが表示される。
――≪Infinite Ravel Online≫
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