第2話
この世を作り、観測し、この世そのものとも呼べる概念それが神。
彼女はその子供の一人。
神が言った。次の神を決めると。
神を殺したものが次の神になる。
2032年、場所は日本の首都、。
死んだ者の魂を一人従えて、人口2000万人を内包する鉄の都から一人を見つけ出し殺す。それを成したものが次の神となる。
「断ったら?」
「なにも ただあなたは消えて私は次の候補に移る ちなみに私はあなたのほかに候補なんて作っちゃいないわ」
「用意周到な女神だな」
「神じゃないわよ まだね」
薄く笑いながら彼女はそう言った。
「そうは言っても 簡単じゃないだろ」
「もちろん 兄妹は私含めて10人」
部屋に入ってきた少女はそういった。
見た目は俺よりも少しだけ幼い印象を与えた。黒く長い髪をした色白の少女。細く白い手足とは対照的にその目にはどこか力強さを感じさせるような顔立ち。シンプルな灰色のパーカーと白みがかったジーパンを着ていた。
「てか、なんだよその格好」
「自分で作ったにしては結構気に入ってるんだけど変?」
「いや ただ神様もどきにしては随分普通な格好だと」
「そのいいかた腹立つわね 合ってはいるんだろうけど」
「名前は?」
「エリ エリ・クロフォード こんなとこかな」
「まぁいいんじゃない」
「準備も済んだし説明も終わった じゃあ行くわよ」
えらく端的な説明だったが、説明があるだけ仕事としてはマシな方だ。
「あ、ちょっと待て 報酬の話がまだだ」
危ない、ここだけははっきりさせておかないと
「報酬? あんた話聞いてなかったの?
神よ神 なんでもできるわ ハーレムでも王にでもなんでも好きにしてあげる」
エリはそういうがもう求めるものは決まっていた。
「もう一度あの家に生まれたい 今度は平和に過ごせるようにしてほしいけど」
「はぁそんなのいくらでもできると思うけどほんとにそんなんでいいわけ?」
驚きと呆れを含んだ顔でそう言った。
「まぁ全部終わったらまた聞くわ、そんときまでにちゃんと考えて置くことね」
「トリかラッコに比べたらだいぶマシな選択だと思うけどな」
そう言うとエリは小さく笑った。
「じゃあ今度こそ準備完了ね」
「あぁ」
「それじゃあまた」エリがそう言うと世界は再び白く飛び始める。死んだときと同じように。だが、先ほどのような寒気を感じることは無かった。
気がつくと俺は芝生の上に立っていた。辺りにはポツポツと木が植えられており、ランニングコースなんかも見つけることができた。公園か何かの広場だろうか。
青々とした空のもと冷たくも澄んだ空気を勢いよく吸い込んだ。
ここは?
2032年の日本の首都ヤマトそう言っていたが、少なくとも俺が生きていた2025年、日本の首都は東京だった。7年間で何があったのかを考えつつも周囲を再び確認すると、エリが少し離れた場所で同じように立っていた。
近づいて声をかける。
「大丈夫か?」
「ええ そっちは?」
「問題ない今のところは」
「ここは日本の首都ヤマト 現在2032年1月14日午前10時12分 私が知ってるのはそれだけよ」
俺が聞こうと思っていたことに先回りして全て答えられた。
「それだけって もっとないのかよ なんで、とかなにが、とか」
「残念だけどないわね これが始まったとき私達はここに関する記憶を消すことになったの あっちには時間の概念がないからここで何が起きたのかそして起きるのかを知ってはいたはずなんだけどね」
「というかここはほんとに俺が知ってる日本なのか?」
「それは間違いない ここはあなたが生きてそして死んだ世界の地続きな未来」
彼女はそれを断言した。かと思ったら突然
「ご飯食べに行きましょう お腹減ったわ」
なんて子供みたいに言い出した。緊張感のかけらもない。
「腹へんの?」
「当たり前でしょ 今は人間と何ら変わらないんだから お腹は減るし怪我もする
なんなら、、、」
と改まってこう付け足した
「あぁ 言ってなかったけどもしこの体で殺されたら私達今度こそほんとに消えちゃうから」
「え?殺されたら?」
「そう」
「ていうか なんで殺されんの 殺す側なんじゃ」
「だから他の参加者つまり兄妹たちを殺すでしょそしたら当然殺されるかもしれないでしょ」
「いやいやみんなで仲良く協力して探し出せばいいだろ そして最後運よく殺せた奴が神ってことで」
俺はてっきり兄妹仲良く探し出して絆を深めよう的なやつだと
「なわけ無いでしょ 神殺しを成し遂げた一組のみが生き残って他は結局死ぬんだから協力なんてできるわけ無いじゃない どうせ9組は死ぬんだし早めに競争相手削っとくべきでしょ」
それも初めて聞いた情報だった 俺としては他の組に神殺しをやらせつつ適当にそいつらと良好になり、全て終わったらしれっとフェードアウト。自由な2度目の暮らしを満喫するか、なんなら俺の願いもちゃっかり叶えてもらおうなんて思っていたぐらいだった。死ぬはずだった俺に舞い降りた次期神との人脈形成イベントぐらいに考えていたのだが、コイツら血の気多すぎじゃないか
「てかなんでそんな大事なこと言わないんだよ?」
「聞かれなかったから」
悪びれもせず、そう答えた。
「それ聞いてたらやめてたわけ」
「いや それはない」
「ならいいじゃん 今言ったわけだし」
一度よく考えてみるが確かに特に問題は無いように思われた。釈然としないがそう言われたら何も言い返せなく俺は反論を諦めた。
「それは置いとくにしても他になんか言ってないことないよな 今の戦略的には結構大事なことだったぞ」
「大丈夫よ 多分」
このガキ、いつか痛い目見せてやるよ 余計な衝突を避けるために心のなかでそう呟いた。
ふと気になったことがある。
「お前ガタイのいい男とかになれなかったのか」
「嫌よ可愛いくないし それに思念体だった時にも大体の形質ってのは決まってたのよね それに寄せて体作ってみたってわけ」
「でも変えれたんだ」
「まぁ、違和感がすごいけど」
気づくと俺は彼女の頭に手を伸ばしかけていた
「で それが何?」
ふと我に返る 危ない俺は何をしようとしていたんだ
「もっと強そうな体にしとくかこっちの要人みたいにしとけば良かったじゃねえの」
「だから そんなの絶対にいや」
「はぁ? まぁいいや 俺だけはなんとしても生き残ってやる」
「え? あぁ それも無理 私が死んだらあんたも消えるもの」
「え それはどういう」
「だからあたしが死ぬと終わりってこと 二人揃ってゲームオーバー」
「それはお互いに一蓮托生的な?」
「いやちがうわよ あんたが死んでも私は消えないから あんた達人間は言わば道具 参加者は私たちなんだから とは言っても私1人で戦うのはほぼ負けみたいなもんだけどね」
気付くと俺は彼女の頭を鷲掴みにし力を込めかけていた
「ちょっ 痛い痛い 話しなさいよ」
再び我に返りその手を離す
「お前 意味わかってんのか 俺ら二人に対して敵は約二十人 こっちの戦力は世間知らずなガキ二人 せめてお前ぐらいはもっと強い肉体を持つべきだろ」
「はぁ意味わかんない あんたが守ればいいだけでしょ そういう契約結んだはずよ」
「残念 契約時にはそんな条件は聞いてません」
「今言ったじゃない 再契約よ再契約」
そんなことを二人して言い合っていた。開幕早々にこんなことをしている組は恐らくいないだろう。
そんな時、突然後ろから声がかかった。
「君たち何してるんだ」
警戒心はあるが敵意はない、それでいてよく鍛えられている。そんな気配。恐らくは警察とかそこらへんだろうな。そう思い後ろを振り返る。予想通り制服を着た初老の男が立っていた。柔らかで親しみを感じるような顔をしている。その一方でその目はこちらをしっかりと観察していた。主に俺を。
「君たちどんな関係?」日本語で聞かれる。ほんとに日本に来たんだな、なんて今さら実感していた。
幸いにも以前日本で仕事する機会があったため日本語は習得していた。イントネーションに少し違和感はあるかもしれないがそれでも結構なレベルで習得できているはずだ。
「兄弟です」なるべく好印象を持たれるように快活にそう答える。
「そっか 彼女は大丈夫かい?」
そういえばコイツ日本語喋れんのかな。イタリア語は結構上手く喋ってたけど。
「はい ごめんなさいうるさくしちゃって」
ちゃんとした日本語でそう答える。
「そっかごめんね 何か揉めてるみたいだったから」警官はコチラへの警戒を少し緩めたようだった。
「まぁ二人とも仲良くね 最後に一応身元だけ確認させてもらえるかな?」
まずい、誤魔化さなくては。
「あー 今ちょっと身分証になるようなものは、ちょっと出てきただけなので」
「身分証?そんなものいらないよ ちょっと顔撮るだけだから」
よりまずいことになった。身分なんてはじめからないのだ誤魔化そうにもどうしようもない。逃げるか?そんなことすれば警察も相手にしなくてはならない。ましてやこちらはここがどこかも分からないしどこへ行けばいいかも皆目見当がつかない。それにオレ一人ならいざ知らず足手まといが一人つく。むしろ警察に保護してもらうか?二人一緒なることができれば守りやすくはある。拘束されるだろうがその間に情報を集めることができれば。なんとか取り繕ってエリの側にいることができないかと考えている間にも警官は端末を取り出し顔の照合を始めた。
「これは、」
俺の顔を撮り終えると警官の顔が曇る。エリはこちらをどうすんのよとでも言いたげなめで見つめてくる。
続いてエリの顔を撮りおえると警官が
「大人しくついてきてもらえるかな」
と言った。
「わかりました」
今後のことを考えると従う他ない。というかどちらに転んでも結果どうなるかは分からないのだからこの際もう賭ける他ない。始まって数分で俺等は大ピンチになっていた。
警官とともに近くの警察署を訪れる。
「どーすんのよ」エリがこっそりと耳打ちしてくる。
「運次第だな」そういう他なかった。
そもそもなんでこんな事になったのだろうか。俺らが喧嘩したからか?何の準備もせず喧嘩したからか?まぁ概ねそうだろう。ただそれだけでここまでのピンチになるのか?普通はもう少ししっかりと態勢を整え来たるべき戦いのため英気を養い感覚を研ぎ澄ませているのではないだろうか。確かに俺にも大きなミスはあった。それは認めよう。ただ、それにしても俺達、運が無さ過ぎるのではではないだろうか。まぁここまで来てしまっては仕方がない。それこそ運次第になるわけだがまだここから事態が好転する目もあるはずだ。
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