勇者パーティを追放された器用貧乏、実は神域の『万能クラフター』でした~荒野を最高拠点の温泉街に作り変えて、美女たちと極上のスローライフを楽しみます(勇者たちは装備が壊れて詰んでいるようですが?)~

@tamacco

第1章:追放と覚醒、そして開拓

第1話 役立たずと言われた日、俺は自由を手に入れた

「おいカイト、遅いぞ! いつまでかかってるんだ!」


 ダンジョンの最奥、まだ魔物の血の匂いが漂う薄暗い空間に、勇者ファルコンの怒声が響いた。

 俺、カイトは自分の体重の三倍はあるであろう巨大なリュックを背負いながら、息も絶え絶えに彼らの元へと駆け寄る。


「は、はいっ! すみません、ドロップアイテムの解体に手間取ってしまって……」

「言い訳はいらん。ポーションだ。MPが切れかかってる」

「あ、はい。すぐに」


 俺は即座に荷物からハイポーションを取り出し、ファルコンに手渡す。彼は礼も言わずにそれをひったくり、一気に飲み干した。


「ふん、ぬるいな。保存管理もまともにできんのか」

「申し訳ありません……」


 保冷バッグの魔石の魔力が切れかかっているのだ。補充用の魔石を買う予算を申請したが、「雑用に使う金はない」と却下したのはファルコン自身である。だが、それを指摘すればさらに機嫌を損ねるだけだと、俺は知っていた。


 俺たちのパーティ『暁の剣』は、今や王国でもトップクラスの実力を誇るSランクパーティだ。

 リーダーで勇者のファルコン。

 聖女のミリア。

 賢者のレオン。

 そして、戦士のガストン。


 彼らは全員、華々しい才能と固有スキルを持っている。

 対して俺、カイトは異世界からの転生者ではあるものの、授かったスキルは『器用貧乏』という、なんとも情けない名前のものだった。

 戦闘能力は皆無。魔法も生活魔法程度しか使えない。

 できることと言えば、荷物持ち、武器の手入れ、料理、洗濯、野営の準備、ポーションの調合、魔物の解体、地図の作成……。

 要するに、冒険における「戦闘以外」の全てだ。


 現代日本でブラック企業に勤めていた俺は、転生してからもその社畜根性が抜けず、彼らの要求に応え続けてきた。

 俺の整備した剣は切れ味が二割増しになり、俺の作った食事はステータスバフがかかる。

 けれど、彼らはそんなことには気づかない。

 彼らにとって俺は、ただの便利な道具であり、パーティのお荷物だった。


「よし、帰還するぞ。カイト、転移結晶を使え」

「はい」


 俺は虎の子の転移アイテムを取り出す。高価な消耗品だが、Sランクパーティの時間は金より重いらしい。

 俺たちは一瞬にして、王都のギルド前へと移動した。


 ◇


 その夜。

 王都でも最高級の宿屋の一室に、俺は呼び出されていた。

 豪勢な食事が並ぶテーブルを囲んでいるのは、ファルコンたち四人。俺の席はない。俺はいつものように、壁際に立って控えていた。


 ワイングラスを揺らしながら、ファルコンが口を開く。


「カイト。単刀直入に言う」


 嫌な予感がした。いや、予感というよりは、いつかこうなるだろうという確信に近いものか。


「お前、クビな」


 心臓が一度だけ大きく跳ねた。

 だが、不思議とショックはなかった。むしろ、胸の奥底で何かがストンと落ちるような感覚があった。


「……理由は、お聞きしても?」

「理由? そんなもの、鏡を見ればわかるだろう」


 ファルコンは嘲笑うように鼻を鳴らした。


「俺たちはSランクだ。近いうちに魔王討伐の勅命が下るかもしれん。そんな伝説になるべきパーティにだ、レベル上限が低く、戦闘の役にも立たない『器用貧乏』が混じっていること自体が恥なんだよ」

「そうねぇ。カイト君がいると、守ってあげなきゃいけないから気が散るのよ」


 聖女ミリアがフォークで肉を突き刺しながら同意する。

 賢者レオンは眼鏡の位置を直しながら、冷淡に言葉を継いだ。


「君のレベルは20で止まったままだ。我々は既にレベル60を超えている。これ以上の同行は、君自身にとっても危険すぎるという合理的判断だよ」

「ガハハ! ま、そういうこった! 荷物持ちなら収納魔法の鞄(マジックバッグ)を買えばいいしな!」


 戦士ガストンが大声で笑った。


 彼らの言い分は、表向きはもっともだ。

 俺のレベルは上がらない。戦闘力もない。

 だが、マジックバッグには容量制限があるし、ポーションの自動管理機能はない。剣は振るえば刃こぼれするし、鎧は凹む。誰がそれを、夜通しメンテナンスしていたと思っているんだ。

 誰が、好き嫌いの多いお前たちのために、栄養バランスを考えた食事を作っていたと思っているんだ。


 言いたいことは山ほどあった。

 喉元まで出かかった言葉を、俺はぐっと飲み込む。

 ここで彼らに縋り付いて、パーティに残してもらったとして、待っているのは今まで通りの奴隷のような日々だ。

 罵倒され、こき使われ、感謝もされない毎日。


(……ああ、もういいか)


 糸が切れた、というよりは、鎖が解けたような気分だった。

 俺は日本での過労死寸前の生活から逃げ出したくて、この世界に来たはずだった。なのに、やっていることは前世と同じだった。

 もう、自由になってもいいんじゃないか。


「わかりました」


 俺は深く頭を下げた。


「今まで、お世話になりました」

「はんっ、もっと泣いてすがるかと思ったが、あっさりしたもんだな。まあいい、これ手切れ金だ」


 ファルコンが革袋を放り投げてきた。中には金貨が十枚ほど。

 Sランクパーティの報酬からすれば雀の涙だが、今の俺には路銀が必要だ。ありがたく受け取っておく。


「それじゃあ、俺はこれで」

「おう、二度と俺たちの前に顔を見せるなよ。Sランクの元仲間だなんて言いふらすな、俺たちの経歴に傷がつく」


 背中に浴びせられた嘲りの言葉を聞き流し、俺は部屋を出た。

 廊下を歩きながら、俺は大きく息を吸い込み、吐き出した。


「……終わった」


 終わったのだ。

 雑用係としての、奴隷のような日々が。


「やった……やったぞおおおおおおおお!」


 宿を出た瞬間、俺は夜空に向かって拳を突き上げた。

 自由だ! これからは何時に起きてもいいし、誰に気兼ねすることなく飯を食ってもいい。

 俺の冒険は、ここから始まるんだ。


 ◇


 翌日。

 俺は早々に王都を離れた。

 ファルコンたちと顔を合わせるのも嫌だし、何より「勇者パーティを追放された無能」という噂が広まれば、他のパーティに入ることも難しくなるだろう。

 まあ、もう誰かの下で働くつもりなんてさらさらないが。


 目指したのは、王都から北へ馬車で三日ほどの場所にある『未開の荒野』だ。

 そこは魔物が生息し、作物は育たず、水場も少ないという過酷な土地として知られている。誰も住みたがらない場所だ。

 だが、今の俺には好都合だった。

 人がいないということは、しがらみがないということだ。


 乗合馬車を乗り継ぎ、最後は徒歩で街道を外れ、荒野へと足を踏み入れた。

 見渡す限り、赤茶けた大地と岩肌が続いている。

 風が吹き荒れ、砂埃が舞う。


「けほっ、けほっ……こりゃあ、想像以上にひどい環境だな」


 俺は苦笑しながら、手頃な岩陰に荷物を下ろした。

 日没が近い。まずは寝床を確保しなければならない。

 俺はパーティ時代に使っていた、ボロボロのテントを取り出した。

 雑用係の俺には、高級なマジックテントなど与えられなかったから、安物の布テントだ。何度も修復して使ってきた愛用品。


「よし、設営っと……」


 支柱を立てようとした、その時だった。

 バキッ!

 乾いた音がして、支柱が真っ二つに折れた。


「……あー」


 経年劣化だ。それに、ここの強風に耐えきれなかったのだろう。

 布地もあちこち裂けてしまっている。


「マジかよ……初日から野宿か?」


 自由の代償は厳しい。

 俺は折れた支柱を手に、呆然と立ち尽くした。

 このままでは夜の冷え込みと、徘徊する魔物にやられてしまう。

 なんとか修理できないか。俺のスキル『器用貧乏』で。


 今までも、折れた剣や破れたローブを直してきた。

 素材さえあれば、きっとなんとかなるはずだ。

 俺は折れた棒と、破れた布を強く握りしめた。

 直れ。いや、もっと頑丈に。もっと快適に。

 俺が住みたいのは、こんなボロテントじゃない。

 もっとちゃんとした、安心して眠れる『家』だ。


 強く、強く念じたその瞬間。


『ピロン♪』


 脳裏に軽快な電子音が響いた。


《条件を満たしました。固有スキル『器用貧乏』が覚醒します》

《スキル『器用貧乏』が、ユニークスキル『万能クラフター』に進化しました》


「……は?」


 機械的なアナウンスの声に、俺は目を白黒させる。

 進化? 覚醒?

 何を言っているんだ?


《『万能クラフター』の権能を行使します。対象素材をスキャン……完了。イメージを具現化します》


 俺の手の中にあるボロテントの残骸が、カッと眩い光を放った。

 光は一瞬で膨れ上がり、俺の目の前の空間を覆い尽くす。

 そして。


 ドォォォン!!


 重厚な音とともに、光が収束し、そこには信じられない光景が現れた。


「……なんだ、これ」


 そこにあったのは、ボロテントではなかった。

 石造りの土台に、頑丈そうなログハウス風の壁。

 煙突からは煙がたなびき、窓には明かりが灯っている。

 こじんまりとしているが、どう見ても立派な『一軒家』だった。


「俺が……これを、作ったのか?」


 呆気にとられながら、俺はおそるおそるドアノブに手をかけた。

 カチャリと音がして、ドアが開く。

 中は温かかった。

 ふかふかのベッド。暖炉には薪がくべられ、キッチンには清潔な水が出る蛇口まで備わっている。

 テーブルの上には、焼きたてのパンのような香りまで漂っていた。


「すげぇ……」


 俺は自分の手を見つめた。

 ステータスと念じると、半透明のウィンドウが浮かび上がる。


 名前:カイト

 種族:人間(転生者)

 職業:元雑用係

 スキル:【万能クラフター EX】

 効果:素材とイメージがあれば、あらゆる物を瞬時に創造・修復・改築できる。作成物には自動的に補正(耐久度無限、快適性向上、自動防衛など)が付与される。


「EXランク……規格外、ってことか?」


 素材はあのボロテントと、周囲の岩や土だったのだろう。

 それだけで、こんな家が建ってしまった。

 しかも『耐久度無限』って、ドラゴンのブレスでも壊れないんじゃないか?


 ドサリ。

 俺はふかふかのベッドに倒れ込んだ。

 最高だ。

 王都の高級宿屋よりも、勇者たちが使っていたマジックテントよりも、はるかに寝心地がいい。


 これが、俺の本当の力。

 ファルコンたちは俺を「戦闘の役に立たない」と切り捨てた。

 確かに、俺は魔王を倒す剣にはなれないかもしれない。

 でも、この荒野に、俺だけの最強の楽園を作ることはできる。


「見てろよ、勇者パーティ」


 俺は天井に向かって、ニヤリと笑った。


「俺を追放したこと、死ぬほど後悔させてやる」


 こうして、俺の自由気ままな、そして規格外なスローライフが幕を開けた。


 一方その頃。

 王都の宿屋では、勇者ファルコンが苛立ちを露わにしていた。


「おい! なんだこの剣は! 全然手入れがされてないじゃないか!」

「ファルコン、私の聖法衣、皺だらけなんだけど……」

「おや、ポーションの在庫がありませんね。誰か補充していないのですか?」


 彼らはまだ気づいていない。

 自分たちの栄光が、一人の「雑用係」によって支えられていたことに。

 そして、その支柱を失った彼らの『暁の剣』が、既に崩壊へ向かっていることに。

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