奇縁な誕生日
なかむら恵美
第1話
学校の廊下を歩いていると、バタバタ駆け寄る人がいる。
「ねぇ、ねぇ。三嘉枝(みきえ)ちゃん、三嘉枝(みきえ)ちゃん」
隣のクラスの、義江(よしえ)ちゃんだ。
最近知り合い、友達になった。
同じクラスの楓(かえで)ちゃんの、小学校時代からのお友達で、放送同好会に入っている。
楓ちゃんからの紹介友達、いわゆる紹友(しょうとも)だ。
さっぱりしていて、時にせっかち。男のような、女のような子だけど、細かな気遣いと何よりの優しさが、わたしは彼女の美点だと思う。
近い親戚の人が、市の広報の市民レポーターをやっていて、ネタを探しているそうだ。義江ちゃんの家の3軒先に住んでいる。
「あの話、本当なの?」
「あの話?」
「ほら、この間3人でお喋りしてた時、面白いと言うか、不思議な話、してたじゃない?」
いつの間にか、ラウンジルームへ足並みが揃う。
別名「50円の、おやつ部屋」。
沢山の自動販売機が設置されているが、全て料金、50円なのだ。
「本当よ」
抹茶ラテと大学芋を目の前に、わたしは頭の中で再現した。
父の誕生日が8月4日で、母が4月8日。
兄は1月3日で、わたしは3月1日生まれ。
父と母が5つ違えば、兄とわたしも5歳違い。
「山(やま)」で<たかし>が父の名だが、「咲く」に「良し」で<さくら>が、母の名でもある。
「富士織(ふじおり)」
こんな変わった姓字(みよじ)も他にいまいとずっと思っていたら、上がいた。
「櫻を見る川」で、「はなみがわ」が、母の旧姓だったのだ。
最初の出会いは、某所主催の「我こそ、珍名」なる催し物であった。母が中学生ぐらいだったという。
そのだけで終わる出会いのはずだったが、月に1,2回。偶然にもちょこちょこ。
通りすがったりしたという。
「へぇ~っ」
前と同じ反応を、義江ちゃんは示した。
「ほぉ~っ」
楓ちゃんがいたとしたら、又、前と同じ反応を示すだろう。
2杯目は、冷たい甘酒。義江ちゃんは、煎茶。チョイスが渋い。
「いえ、実はね。その話を、昌子(まさこ)ちゃんにしたンよ」
「昌子ちゃんって、市民リポーターをやってるとかいう?」
「そっ。そしたら是非、話を聞きたいって。取材されンのよ、富士織家!」
「・・・・はぁ」
ピンと来ない。
「巧くゆけば、広報に載って有名になるかも!」
「あれが噂の富士織一家、って?」
「そう、されまくるのよッ!」
段々と義江ちゃんは、紅顔してくる。
「してですね。ミッキー、富士織三嘉枝大明神様」
そうら来た。一応は言う。「何でっしゃろ?」
「ご両親、及び兄上様にお話をば頂いて、来週中に、お返事をばを頂ければと思うでありんすが、どうでっしゃろ?」
「あ~っ、取り敢えずは言うけど、期待薄かもね」
「そこを長女の力、3月1日生まれのパワーを持って、お願いしますよ」
揉み手、揉み手でヨイショの術。流石は、放送同好会会員。
夕食を食べて、入浴。
父が遅くなると言うので、例の件は明日にした。家族全員が揃っている時がいい。
パジャマ姿で、宿題をする。休憩の合間に、ミルクを飲みながら思う。
(今まで何とも思わなかったけど、まーそーだよね。こんな家族、
誕生日が両親と子供達で、各々ひっくり返っているなんて、奇縁かもね)
ミルクの面(おもて)に、笑っていた。
<了>
奇縁な誕生日 なかむら恵美 @003025
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