この世界に飽きが来ませんように。
シエル・エスターテ
電車
「なにもかも投げ出してどこか遠くへ行きたい」
ふと立ち止まった君はそう言った。
僕は咄嗟に君の手を掴んだ。
「いいよ、行こう。疲れるまで、終わらせたくなるまで」
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君と僕は小学校からたまに会話をするくらいの、親友とは呼べない距離感の友人だったね。
中学、高校までも一緒だった僕ら。お互いアルバイトだったり部活だったりで話すことも、顔を合わせることすらなくなっていった。そんな中たまたま下校時間が被り、自転車通学の君は自転車を押して、部活についての愚痴を言っていた。部活の愚痴とともに君の口からでた言葉。幸か不幸か、(僕らにとっては幸だったのかもね)当時僕は日々の生活に飽き飽きしていたんだ。
「え・・・?」
「いこうよ、どこかに。」
「どこか、って、わかっていってるの?ちょっとした遠出じゃない、今の生活を捨てるようなことをしたいっていってるんだ。」
「わかっているよ、でも僕は君とどこか遠くへ行ってしまいたい。」
君はひどく驚いた顔をしていたね。でもどこか嬉しさを滲まして、不安そうで、泣きそうな顔だった。
「一緒に行ってくれるの」
「うん。どこにいこうねえ、お互いアルバイトをしているし、どこまでも行けそうだけど。」
「それなら、それなら電車に乗ろう、切符なら誰がどこへいったかなんてわかりやしないし、どこまでも電車は行くよ」
顔を見合わせて話したのは高校では久しぶりだったけど、今まで見たことないほど楽しそうにこれからの話しをする君。僕はあの時信じてもいない神様に願ったんだ。ああ、神様、この子の行く先すべて、幸で溢れたものになりますように、って。
その日のうちに僕らは今まで使う当てもなかった社会からの駄賃を持って電車に乗ったね。
さすがに終電があるから隣の県の端っこまでしか行けなかったけれど、知らない名前の駅、知らない土地で君と迎えた朝は綺麗だった。始発の電車になんて初めて乗る、と僕の手を引き笑う君の顔は、もう泣き出しそうでも、不安そうでもなくて。やけに外が眩しいのは、朝日のせいだけじゃないと思った。
僕らは旅のゴールなんて決めず、行く宛もないまま電車に揺られていた。
人生には絶対に終着点がある。この電車も、僕らの持っているお金も、僕ら自身も。
永遠なんてないとわかっているからこそ、僕は君と遠くへ行く決断をした。
後悔なんてしていないよ。後悔なんてするもんか。僕らはきっと自由だから。
ずっと、どこまでも一緒に行こう。
この世界に飽きが来ませんように。 シエル・エスターテ @111555444
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