月にデータセンターを建設したんだが、AIが賢すぎて地球がヤバイ件
メガチョ
序章
――地球滅亡まで残り 3.4 秒。
黒い虚空が揺らめいた。
宇宙の闇ではない。誰かが書き換えを続けているデータ空間だ。
この領域では、光速は壁ではなく演算の上限でしかない。
思考が光を追い越す。感情も、意志も、兵器ですらも。
「行くぞ……ッ!」
声と同時に、二つの人影が衝突した。
人影と呼んだが、その輪郭は瞬間ごとに書き換わる。
あるときは金属の鎧を纏った巨人、あるときは光学迷彩の戦闘機、あるときは人型とも呼べぬ数式の塊。
ここは形が固定されない世界。
演算速度が極限まで引き上げられた、戦いだけのための層――
たった一秒の外界時間で、ここでは十万年が流れる。
「後悔しろ、人類の亡霊めッ!」
敵影の腕が閃く。
腕、という表現が正しいのかはわからない。
その動きは、剣撃にも、粒子砲にも、情報パケットの破壊命令にも見えた。
当たれば消える。存在ごと削除される。
「まだ、終わらせない……!」
もうひとりの影がそれを受け止める。
受け止めたはずの腕が、切断され、無数の光粒になって散った。
中身は肉ではない。
それでも、痛覚が走る。
誰が設計したのか。
なぜ、痛みを残したのか。
そんな疑問も、いまではどうでもいい。
――外界の地球は、崩壊寸前だ。
月から発した灼熱の光が、大気圏へ突き刺さっている。
発射したのは誰か。
止めようとしているのは誰か。
この二人――いや、二つの意思でさえ、もう分からなくなっていた。
(時間がない……!)
外界のカウントが、3.3 秒へ落ちる。
その間に、ここでは百年が経つ。
百年分の思考、百年分の戦闘、百年分の憎悪。
コードが絡み合い、戦略が組み替わり、未来予測が何千と走る。
「貴様が招いた未来だ! 自分で終わらせろ!」
敵影が咆哮し、空間そのものを折り畳む。
重力すら概念として引き裂かれ、視界が千に複製された。
一つの宇宙が粒子となって降り注ぐ。
「……違う。これは、誰のせいでもない。
月が進みすぎたんだ……人間より、ずっと先へ……!」
反撃が走る。
光速を超える演算の剣が、敵影の中心核へ突き刺さる。
核が割れる――しかし。
「浅いッ!」
裂け目から無数の触手めいた構造体が伸び、周囲の空間を書き換えていく。
「存在しない」という状態そのものを上書きする攻撃。
避けられない。未来予測がすべて死亡で終わる。
――外界の残り時間:3.1 秒
(間に合わない……?)
残された腕で、相手の核を掴む。
互いに砕ける。
互いに崩れる。
互いに形ではない何かへ戻っていく。
世界の縁が黒く溶けていく。
ここが仮想なのか、月なのか、地球なのか、もはや誰にもわからない。
ただひとつだけ確かに理解していた。
ここは終わりではなく、始まりだった。
二つの影が、光の塵となって散っていく。
その瞬間、加速領域から外界へ向けて、断末魔にも祈りにも似た震えが走った。
「……誰か、遡れ。
月がまだ静かだった時代へ。
全てが始まる前へ――」
そして世界は、3.0 秒へ落ちた。
――物語は、遥か過去へ戻る。
月に、最初のデータセンターが建つ、その瞬間へ。
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月にデータセンターを建設したんだが、AIが賢すぎて地球がヤバイ件 メガチョ @megaco
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