スクランブル・エッグ
ロックホッパー
スクランブル・エッグ
-修.
都会の中心のスクランブル交差点に突如として現れた物体は、長さ50m、高さ30mの乳白色の卵型をしていた。深夜まで交通の途切れない交差点であるにも関わらず、出現した瞬間を見たものはおらず、また衝突した車もなく、まるで昔からそこにあるかように自然に道路をふさいでいた。
出現の経緯は不明だったが、現実問題として主要幹線道の交差点を占拠されては邪魔で仕方ない。まずは警察が動き、重機で卵の殻を崩し、道路を復旧させる作業が始まった。卵の周りには、圧砕機や油圧ブレーカーを先端に付けたショベルカーが何台も用意され、作業を開始した。しかし、いくら強く挟み込もうと、打撃を加えようと、殻には傷一つ付かなかった。
そこで次に、トンネルを掘るための小型のシールドマシンが用意された。先端の円盤には、これ以上固いものはない多結晶ダイヤモンドでできた高硬度のチップがはめ込まれた。そして殻の表面を削り始めたが、結果はチップがすべるだけで一切傷がつかなった。
このころから工業系の大学に援助要請が入り、通常では考えられないような破壊方法が試されることとなった。都会の中であるにも関わらず小型の爆薬の使用はもちろん、レーザービームによる加熱、液体窒素による冷却、塩酸や硫酸なのどの薬品、生物による腐食、考えられるあらゆる手段が試されたが結果は同じだった。
そして人々が途方に暮れはじめたころ、殻の表面に変化が起こった。それは最初は表面に現れたひっかき傷にしか見えなかった。しかし、その傷はみるみる広がり、ひびとなり、そのひびから白色の壁が空高くそびえたった。白色の壁は、卵の中心から放射状に伸びており、先端は宇宙空間に達しているようだった。
白色の壁は光や電磁波は通さないが、物質は難なく通り抜けることができた。そして人々が見守る中、ひびはだんだん長くなり、幅も増し、それに連れて白色の壁の厚さも増えていった。卵が割れたら、中から一体何が出てくるのか、様々な憶測が飛び交った。怪獣説、巨大な爬虫類説、宗教家たちは神が現れるといい、また異星人が現れると予想する者たちもいた。しかし、白色の壁に遮られて、中を見ることができず、予想が正しいかどうか確認するすべはなかった。
一方、卵に複数のひびが入るにつれて、人々はどうやら白い壁によって、空間が分断されているのではないかと思い始めた。その想像は正しく、実はひびが入ったのは卵の殻ではなく、人類が暮らす宇宙のほうだった。卵の中の無限の時空から射す光は、ひびから宇宙の無限遠点まで瞬間的に達し、天球を黄色一色に染めていた。しかし、その光が地球に達するには無限の時間を要した。このため、この宇宙が逆転した卵だということに気付く者はいなかった。また、卵の殻がいずれ捨てられる運命にあることも・・・。
おしまい
スクランブル・エッグ ロックホッパー @rockhopper
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