27話 背中の傷


薄曇りの空の下。

風が砂をさらっていく廃村で、シェル達の一隊は敵に囲まれていた。


レン「来ますよ!!」


レンが叫ぶより早く、敵の刃が仲間めがけて振り下ろされる。


その瞬間、シェルが三人の仲間を抱き寄せ、背を向けて飛び込んだ。


ザシュッ!!!


血が散り、金髪が揺れた。


レン「た、隊長!!」


シェルの背中は完全に無防備だった。

深々と斬り込まれた刀傷は、肉を割り、骨に届くほどだった。


敵の頭領は冷たく笑った。


「その傷じゃどのみち助からん。行くぞ。隊長を失った一味など取るに足らん」


敵は背を向ける。

残されたのは倒れ伏すシェルと蒼白になった仲間だけだった。


レンは膝をつき、声を震わせた。


レン「隊長、死なないでください・・・

あなたが死んでしまったら俺たちは旅を続けることも、笑うこともできない」


メリサ「お願いだよ隊長・・・目を覚ましとくれよ・・・」


しかしその直後、愕然とした。

背中の傷が体の半分近くまで切られていたからだ。

絶望した。


♦︎

だが、敵の誤算は一つ。


レン「奴らは隊長の治癒能力が“桁外れに強い”ことを知らなかったんです。」


フローナがレンを見た後、敵に目を向けた。



体の半分を斬られてから再会するまで約二年。


「・・・てめぇ、生きてやがったのか、あの傷で。大した奴だ」


頭領が振り返る。


シェルは吐き捨てるように言った。


シェル「あの時、俺の体を真っ二つにしなかったのは誤算だったな」


敵の幹部の一人が、震えながら呟く。


「こいつ・・・

前よりもはるかに強くなってやがる・・・」


頭領は笑った。


「面白い」


次の瞬間、刹那の斬撃。

シェルは一瞬で敵を倒した。


倒れた頭領は薄く笑いながら言う。


「やはり、あの時お前を殺さなくて正解だったよ」


シェル「何?」


「病で死ぬより、こんな“強い相手”に殺されて死ねるんだからな」


シェル「お前・・・」


「さぁ、やれ」


シェルは無言で刃を突き立てた。

そして頭領が倒れた途端、残った部下たちは慌てふためいた。


「隊長がやられた!逃げるぞ!」


「おう!巻き添えはごめんだ!」


シェルは冷たい声で言う。


シェル「お前ら、それはねーんじゃねーか?」


一人が震えて叫んだ。


「俺達は財宝が手に入るって話があったから乗っただけだ!こんなの聞いてねぇよ!」


シェル「知るかよ。

“お前らの意思”でこいつにくっついて来たんだろうが」


シェルの目がギラリと獣のように光った。


二人が青ざめた。


「ひっ・・・!!」


「たすけっ・・・!!」


シェルは地面を蹴った。


ダンッ!!


二人の悲鳴が重なるより早く、同時に斬り捨てた。

赤い飛沫が風に消える。


フローナは呆然と呟く。


フローナ「こんなシェル、初めて見た・・・」


レン「隊長、珍しく怒ってますね」


フローナ「はい・・・」


シェルは黙ったまま歩き出したが、

仲間たちは気付いていた。


隊長は仲間に危害を加えた相手は誰であろうとも皆殺しにする。それだけは絶対に変わらないのだと。


そして、背中の傷は今も残り続けている。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る