8話 レン

夜の焚き火が小さく揺れていた。

仲間たちが寝静まった頃、シェルとレンだけが火の前に残っていた。


 


シェル「なぁレン、最初に殺した奴のこと覚えてるか?」


レン「忘れたくても忘れられませんね。

最初に殺したのは、実の父親でしたから」


シェルは火を見つめたまま、一切口を挟まなかった。




♦︎レンの過去


俺の父親は暴力を振るう人だった。

10歳の時。ついにエスカレートした父が、母に椅子を振り上げた。


気づいた時には、俺は花瓶を握って父の背後に立っていた。

無我夢中で投げつけた花瓶は父の頭部を直撃し、

そのまま父は息を引き取った。


母は俺を庇って警察に逮捕された。

日頃の暴力が明るみに出たおかげで、逮捕期間は短かった。

けれど出所して数年が経った頃、母は病で亡くなった。


それからの俺は、ひどく荒れた。


そんな時だった。隊長に出会ったのは。



♦︎

シェル「今でも覚えてるよ。お前と出会った時のこと。

光の帯びてない、この世の全てに殺意抱いてるような目だった」


レン「普通そんな相手に近付きませんよ」


シェル「いやぁ、どうしようもなく惹かれたんだよな〜、あの目に」


レン「物好きですねぇ、隊長は」



少しの沈黙のあと、シェルが真面目な声色で言った。


シェル「なぁレン、俺といて楽しいか?」

レン「えぇ。隊長の面倒見るのは大変ですけどね」

シェル「おー、耳がいてぇ」

レン「・・・ですが、あなたに出会えて良かったと思っています。」

シェル「そうか・・・俺もだよレン」


レンはふっと笑った。


レン「隊長、覚えてますか? あの時あなたが言った言葉」

シェル「え、何だっけ?」

レン「俺がお前の居場所になる・・・とか。くっさい台詞吐きましたよね。」

シェル「あ〜・・・言ったわ」

レン「嬉しかったんですよ、俺」

シェル「へへ、照れるじゃん」


シェルは鼻の下を指でかいた。




レン(あなたは眩しかった。出会ったあの日からずっと。

どんな暗闇も照らしてしまうくらい眩しい光で、

そんなあなたに、俺がどれだけ憧れたか。どれだけ惹かれたか。

きっとあなたは知らないでしょうね。」


レンはじっとシェルの顔を見つめる。


シェル「何?」

レン「いえ」



シェル「なぁ、レンは何で仲間になってくれたんだ?」

レン「あなたがしつこかったからですよ」

シェル「だって・・・」

レン「?」

シェル「ずっと同じ場所にいたから」

レン「!」

シェル「本当に俺が嫌なら場所変えて逃げるだろ?

それに、武器も向けて来なかったしな」


レン「っ・・・」


核心を突かれ、悔しそうにでもどこか嬉しそうに

レンは顔を赤く染めた。


 


レン(手を伸ばすのが怖かった。

差し出された手を取れば、暗いだけの自分が消えてしまいそうで。

なのに、明日も来るのではないかといつの間にか願ってる自分がいた。

そんな自分が苦しくて。そんな自分を救って欲しくて。

輝く太陽のような笑顔を向けるあなたのその手を取った。)




シェル「俺は両親を殺した罪悪感から逃げたくてチェルを可愛がった。

弟と離れた寂しさから早く仲間を作りたくて、お前に執着した。

俺は、レンが言うような綺麗な奴じゃないよ」


レン「いいじゃないですか。

今こうして一緒に旅できてるんですから」


レンは優しく微笑んだ。


レン「俺はそんな隊長だからこそ救われたんです。

前に会ったとき、弟さんも言ってましたよ。

“にーちゃんは俺のスーパーヒーローなんだ”って」


シェル「・・・」

レン「あ、ひょっとして隊長、泣いてます?」

シェル「泣いてねぇし」


焚き火の音に紛れ、シェルの声は少し震えていた。

 

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