番外編 一日一歩?

レトロな街の石畳をどこか懐かしいメロディが包み込んでいた。

古い蓄音機のような音色が建物の隙間からふわりと流れてくる。



〜〜〜♪

一日一歩、三日で三歩、

三歩進んで二歩下がる〜♪



シェルはそのリズムにすっかり乗せられ、無意識のうちに歩調を合わせていた。


シェル(三歩進んで二歩下がる、っと)


ピタッ。


次の瞬間。

 

ドンっ!!


レン「ぶっ!!」


乾いた音と一緒に、レンが顔をしかめる。

シェルの背中に思い切り顔面から突っ込んでしまい、鼻を押さえてうずくまった。


レンは涙目のまま、シェルの首根っこをがしっと掴み上げた。


シェル「ごめんてレンちゃん」

レン「あなたと言う人は!いきなり止まらないで下さいよ!」

シェル「いや〜、歌に乗せられてつい」

レン「あなたのせいで二次被害が凄いんですよ」


レンが後ろを振り返ったその瞬間。

後方でフローナが両手で鼻を押さえたまま、立ち尽くしていた。


フローナの目はうっすら潤み、鼻の頭が赤くなっている。


メリサ「ちょっと!フローナちゃん大丈夫かい!?」

フローナ「は、はい」


レンはハッと顔色を変え、深々と頭を下げた。


レン「フローナさん、すみません・・・!」

フローナ「い、いえいえ」


フローナは慌てて手をパタパタと振り、鼻をさすりながら小さく笑おうとした。


シェルも不安そうに顔を覗き込む。


シェル「ごめん・・・大丈夫か?」

フローナ「うん、だいじょ・・・(たらり)」


その瞬間。

フローナの鼻先から、ぽとりと赤い雫が落ちた。


レン「フローナさん!!」

メリサ「わああ!フローナちゃん血!!」


一気に場が騒然とする。


無言で状況を察したコキアが、どこからともなくサッとティッシュを取り出し、フローナに差し出した。


コキア「どうぞ」

フローナ「ありがとコキア君」


フローナはティッシュを鼻に当て、少し上を向く。


その様子を見ながら、シェルは完全に肩を落としていた。

そんなシェルにレンのお説教タイムが始まり・・・

この日からシェルは、この街にいる間ずっと「罰」として最後尾を歩く係に任命されることとなった。


しかも・・・。


レン「前方不注意防止です。皆さんより数メートル後ろを歩いてください」

シェル「遠くない?」

レン「適正距離です」


こうしてシェルは、皆の背中を眺めながら、とぼとぼと歩くことになるのだった。


レトロな音楽だけが、やけに明るく街に流れ続けていた。


しばらくして、フローナがレンにお願いをして元の定位置に戻ったのだった。

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