人を助けないと即死亡の呪いを受けた悪役貴族の俺、しぶしぶ一日一善してたら、史上最高の名君に成り上がってしまう〜災厄貴族ジューダス・ファウルトの偽善〜
三月菫@12月22日錬金術師5巻発売!
第1話 断罪
「おい、使用人ども。
「…………は? なんと申されましたかジューダス様」
屋敷の食堂。
夕食後の時間。
使用人たちが後片づけに追われるそこへ、俺——ジューダス・ファウルトが乱入していた。
「耳が腐ってるのか? もう一回言ってやる。俺に夕食の片付けを手伝わせろ。皿洗いでも何でもいい」
「いえ!
「うるせえ。いいからやらせろ。俺がやるって言ってんだよ。殺すぞ」
怯えきった使用人を押しのけるように、俺は皿の山の前に立つ。
袖をまくり、冷たい水に手を突っ込み——
「つめてええええええええ!!??」
それでもガシガシと洗い始めた。
(くそ! なんで俺が
冬の水は氷みたいに冷たい。
あっという間に指先の感覚がなくなっていく。
——なのに、やめられない。やめるわけにはいかない。
視界の端に――「4」。
白い数字が浮かんでいるからだ。
この数字が0になったとき、
「一体どうしてこうなった……!?」
◆
「
俺は、
父、ガリオス・ファウルト公爵。
民からは〝
——そして、俺が
棺の前には、ガリオスの正妻クラウディア。
そして、
後ろ姿で
その後ろで、俺はこっそりと腹違いの兄弟たちに向かって中指を立てた。
(やっとこの地獄から解放される)
俺はガリオスの正妻クラウディアと血のつながりはない。
俺の母さんは、ガリオスに使えるメイドの一人だった。
俺を産んだことが罪だと言わんばかりに、冷遇され続けて、最期は流行り病にかかって、ろくな治療も受けずに死んでしまった。
(……俺も同じだ)
価値なし。外れもの。
殺されてもおかしくなかった俺が屋敷に置かれた理由は、一つだけ。
俺には才能があった。
剣も、魔法も、算術も。
皮肉なことに、正当な後継者ではない
その才能を見抜き「使える」と判断したのが、ガリオスだった。
——そして、そこからが
剣、魔法、政務、礼儀、交渉、尋問、戦略——ガリオスは自らの手で、それらすべてを俺に叩き込んだ。
帝王学、などと言えばそれっぽいが、実態はただの虐待だ。
泣こうが喚こうが、ガリオスは容赦なかった。
幼い俺にとっては、永遠とも思える地獄の日々。
その上、俺を苦しめたのが――
俺は転生者だ。
現代日本でうだつのあがらない独身貧乏サラリーマンだった俺は、今度こそ温もりのある家庭を望んで、このファンタジー世界に生まれ直した……はずだった。
なのに待っていたのは、望まれない子としての差別と、実父からの虐待だけ。
(転生先の親ガチャ、大ハズレだぜ)
転生してまもない頃。
幼い俺に、母さんはよく
「ジューダス、この世界は沢山の愛であふれているの」
「だからどんなときも、他者への慈しみを忘れないで」
(はっ、笑わせんなよ)
愛?
思いやり?
そんなもの、どこにある?
(だったら、なんで俺はこんなに苦しい? なんで、誰も助けてくれなかった?)
しまいには、そんな善意を説いたアンタも、ちっぽけに死んだ。
そこでようやく、俺は悟ったのだ。
俺が転生したこの世界では、
ここは弱肉強食の世界。
強者こそが正義。
弱者は、従うか、死ぬか。
ならば、俺は強者になる。
踏みにじられるくらいなら、踏みにじる側へ回る。
それからの俺は、ガリオスの
才能を、悪意で研ぎ澄ましていった。
「クソジジイ……俺に強さを遺したことだけは、感謝してやるよ」
俺は、ガリオスの眠る
「アンタの二つ名……〝災厄〟はこの俺が継いでやる。安心して地獄で眠ってろ」
俺は、あふれる笑みを抑えることができなかった。
◆
「それでは最期の別れを――」
参列者が一人ずつ、棺の中のガリオスの死に顔を確認していく。
俺の順番になり、ふと違和感に気づいた。
(……ん? なんだこりゃ)
ガリオスの胸元に、古びた
丸い金属板に刻まれた
中央には黒い宝石のような核がはめ込まれており、
(こんなもん、ガリオスは身につけていたか?)
記憶にはない。
だが、妙に目を引かれた。
(……悪くねえ)
理由はわからない。
気づけば、そう思ってしまった。
祈るふりをして身を
アミュレットに触れた瞬間、ひやりとした感触が指先を伝い、それが妙に心地よかった。
そのまま俺はアミュレットを
(このまま、燃やされて灰になるくらいなら、俺がもらってやるよ)
列から外れ、周囲の視線から離れたところで、こっそりとアミュレットを取り出した。
誰も見ていないのを確認してから、ゆっくりと首へ通す。
ひやっとした感触が肌に触れた、その瞬間――
頭の奥で、鈍く重い音が鳴り響いた。
「……っ!?」
謎の
◤
◤これより
「……は?」
意味のわからない宣告。
聞き返す
「……ぐおっ!?」
脳を、太い
足元が揺らぎ、視界がにじむ。
冷や汗がぶわっと吹き出し、呼吸が乱れた。
だが、その痛みは嵐のように一瞬で去り、何事もなかったかのように消え失せる。
「な、なんだ……今の痛み……?」
思わず、
だが、謎の声の正体も、今の出来事の意味も、まったくわからない。
ひとまず、周囲を見回す。
誰も俺の異変には気づいていないようだ。
「……このアミュレットのせいか?」
俺はアミュレットの感触を確かめるように、そっと胸元に手を当てる。
そして異変に気づいた。
「……あ、あれ?
確かに胸元に身に着けたはずのアミュレットが消えているのだ。
(どういうことだ?)
しばらく、アミュレットの
(……気のせい、ってことにしておくか)
考えるのをやめ、俺は小さく肩をすくめた。
このとき俺は気づいていなかった。
俺が身につけてしまった、古ぼけたアミュレット。
名を、
これが、災厄の貴族——ジューダス・ファウルトを殺すことになるなんて。
***
というわけでカクヨムコン11異世界冒険ジャンル参加作品。
連載開始です!
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