第4話 十二歳になりました。

ここからは一日一話ずつ、毎日21時の更新となります。

――――――――――――――――――――


「〈囲い〉」

 くるりと、赤い円が地面に描かれる。

 大きさはここしばらくは、俺の両手を開いて合わせたくらいの半径だ。


 どういった成長の仕方をしたものか、最初に変えられるようになったのは色だった。

 あと、消えるまでの時間が長くなった。


 当然、任意で消せるようにもなったので、リキャストタイムが減っているのは確認済みだ。


 くるり、くるり。

 何度か円を追加で描く。消しながらなので、一回に出る囲いの円は、一つだけだ。


「相変わらず一個ずつだし、線なのねえ」

 フィリスねーさんにはそう揶揄われる。


 大器晩成ってレベルじゃなくない?とは、練習風景を見ている他の村人の過半数の感想だ。


 勿論、そうなるように仕向けているんだけどね。

 俺には、このスキルの行き先が、もう見えている。


 でも、正直そんな使い道、この世界でする必要がある気が、今はしないんだ。



 転生してから十二年。

 この世界は、いや、この大陸とこの村は、とてつもなく、平和なのだ。

 大陸に七つある国はどの国も、隣国と揉めたという噂すら、流れてこない。


 まあもう一方のフランバル大陸は結構なカオスらしいんだけどね。

 三つの国が大陸の覇権を競い合っているそうだから。


 五つの大島のうちの四つは、二つの大陸の間に浮かんでいる。


 うちからいちばん近いのは、この村の先の俗に言う魔物の国から岬の突端を突き合わせるような形で存在している、モスクモロル島だ。


 ここは国土の半分が魔物の領域、残り半分がモスクモロル国という人類の国だ。


 その北にあるフェ・ダという島は、西大陸フランバルにあるヴァンレン帝国にちょっかいを出されている、という。


 田舎の村にも、そんな遠方の噂はちゃんと流れてくる。

 ここが、国境にいちばん近い村だからだ。


 コルモラン男爵家は、家格こそ男爵家だけど、実は精鋭揃いの武闘派の家なんだ。

 スキル持ちもそこそこの人数いて、研鑽を積んでいるという。


 今んとこ海賊退治に駆り出されるくらいしか、仕事がないそうだけどね。

 その海賊退治の報酬が、基本的に所領を回す原資だってよ。


 俺もこの春から、鍛錬に参加するようになった。


 うちは農家じゃないんで、耕す土地を持ってないからね。

 地元で就職するなら、ほぼ兵士一択、なんだよなあ。


 かーさんの仕事は、夜は居酒屋のウェイトレスで、昼間は寺子屋の先生なんだ。


 小学校、という制度はこの世界にはないので、寺子屋、と俗称される教会付属の初等教育無料講座、みたいなものがあるだけなんだよね、田舎だと。


 習うのは、基本の読み書き計算とこの世界の生き物の話、希望者には地理とか、歴史も教えてくれる。


 生き物の話が必須科目なのは、この辺境では、魔物の実態をちゃんと知らなくちゃいけないからだ。

 地理や歴史は、村から出る気のない人には不要な情報なので、希望者だけ、ってわけだな。


 無論、大きな街に行けば、富裕層や貴族の子弟が通うような立派な学校もある。

 初等部と専門部に分かれていて、俺は初等部だけとりあえず通えればいいかな、という話。


 うん、庶子であっても貴族の係累なんで、一応大きい学校には行くのがほぼ決まってる。

 嫡子だと専門部まで進むのが男女ともデフォだそうだけど、庶子だとそこまではしなくていい、そうだ。


 村から浮いてる感は相変わらずだけど、現状は前世よりはイージーモードだな。


「相変わらずマルなのか」

 おもむろに声を掛けてきたのは、金髪縦ロールという、前世では漫画で位しか見た記憶のない派手な髪形の、地味な、それでも上質な服装の、見るからにお姫さまだ。


「色とサイズがちょっと変えられるようになったくらいですね」

 ちょっとだけ丁寧語で、答える。


「またそういう丁寧語になる。普通の言葉で良いと言っておろう。姉だぞ、わたしは」

 むぅ、とふんぞり返る姿が妙にかわいいこの少女は、男爵家の正妻様の次女であるサスキア様、十五歳だ。


 確かに、俺の姉ではある。

 だけど、嫡子に庶子がタメ口って、この世界では流石にアウトだよ!


「お姉さまである以前に、僕は臣下の身ですから?」

 これももう決定事項だ。


 流石にスキルの成長が遅すぎて、大成を待つくらいなら体を鍛えて兵士として上を目指す方が早いだろう、というのが、男爵と、この村の駐在神官さんの下した結論だ。


『習熟度は年齢より随分高いようですし、【内なる力】も大変優秀なのですが……いまだに線画の丸、なんですよねえ』

 これは駐在神官さんの判定および愚痴だ。


【内なる力】というのは、ゲームとかで魔力とかMPとか良く言ってるアレだな。

 スキルの使用回数や頻度や、規模に影響する。


 魔力、という言い方をしないのは、魔物関連の力ではない、ということを明示するためだそうだ。

 魔物も【内なる力】は持ってるけどね。


 この世界を動かしているのは、物理法則と、神の御力と、生き物が持つ【内なる力】、それに精霊種の使う属性の力、だ。多いな?


 物理法則はまあ斥力とかないと生活どころじゃないだろうから存在しているけど、それ以外の各種の力で、案外と容易に捻じ曲げられる程度のものだ。


 実際、俺のスキル〈囲い〉でも、円を描く素材は、どこからともなく湧いてくるからな。

 これは【内なる力】を変換して出現するものではあるんだが。


「お父様からそれは既に明確に言われているのか?」

「明示はされてないですね?ただ、この春から新兵と一緒に鍛錬するようにということで、鍛錬は始めています」

 聞かれたことには素直に答える。

 この姉上は、ちょっぴり、ほんのちょっぴり、気が短いので。


 キレたところで機嫌が見るからに悪くなるだけなんで、決して悪い人じゃないんだけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2026年1月10日 21:00
2026年1月11日 21:00
2026年1月12日 21:00

カッコイイスキルくださいって言ったら通じなかった。~周囲から浮いてる少年の『囲いコミ』ライフ?~ うしさん@似非南国 @turburance

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ