「非公式」ゆえに歪む真実。それでも、正義か
- ★★ Very Good!!
作品のテーマである「虚構と現実」「権力と弱者の闘い」には強い共感を覚えますが、いくつか気になる点も残っています。
まず、赤城宗介の行動原理について。警察官としての使命感と、娘を持つ父親としての想いは理解できるものの、その二つがどう結びついて「これほどの危険を冒す決断」に至ったのか、心理描写がもう少し深くあればより共感できたかもしれません。
次に、物語の展開について。香菜の死因が早い段階で「自殺」と示され、その後は「なぜ自殺に追い込まれたか」という背景の掘り下げに重点が移ります。これはこれで社会派作品としての説得力がありますが、当初の「不可解な死」という謎かけからすると、少し期待外れな感じも否めません。もう一捻り、死の真相にまつわる意外性やトリックがあれば、よりスリリングだったかもしれません。
また、小野寺とのやり取りや情報収集の過程がやや平坦に感じられます。二人の対話にはもう少し「駆け引き」や「すれ違い」があれば、緊張感と人間味が増したと思います。赤城が誰とでもすぐに信頼関係を築き、敵でさえも簡単に心を開かせるような描写は、時に「都合よすぎる」と感じてしまいました。
とはいえ、VTuber業界の闇や政治との癒着、ネット世論操作など、現代的なテーマを大胆に取り込んでいる点は高く評価できます。特に「ボットによる人気偽装」や「アンチコメントの自作自演」といった仕組みは興味深く、読ませる力があります。