「贖罪の形」について考えさせられる物語
- ★★ Very Good!!
『人殺しは恋をしたい』は、傷ついた少年と謎の女性の閉じた関係を繊細に描き、読者に「真の贖罪」について考えさせます。
主人公の「告白」や「墓参り」には自責の念と苦痛が見て取れ、彼なりの「懺悔」の形と言えます。しかし、その行動は主に自分自身の心の安定を求める内的な過程に留まっているように感じられます。公園での逃避や、他者との隔絶は、現実の罪の重みと社会に対する責任から目を背ける「逃避」の一形態ではないでしょうか。
彼と「先輩」の関係は、互いの暗い過去を無条件に受け入れる「傷を舐め合う」依存関係です。これは孤独な魂に一時の安らぎと生存の意味を与える力があります。しかし、この二人だけの閉じた世界が贖罪のすべてであるなら、それは危うい均衡です。個人的な経験から、真に「前に進む」ためには、この関係を超え、自分の行為が現実世界に与えた影響と向き合う必要があるのではないでしょうか。
この物語は「外部の裁き」よりも、傷ついた者同士の救済に焦点を当てています。その描き方は共感を誘いますが、死者への真の追悼や具体的な償いが描かれなければ、その「贖罪」は相互安慰の域を出ず、深みに欠ける恐れがあります。作者がこの先、どのような「贖罪の形」を提示するのか、その行方に注目しています。