強すぎたドラゴンは地の底から世界の終わりを見届ける

猫とホウキ

①挨拶代わりの一撃で焼殺してはいけません

 漆黒の肉体は、数多の闇を吸収した結果なのか。あるいはその存在そのものが闇であるのか。


 油絵具のような質感の肌には鱗はなく、空気に触れ合う輪郭は僅かに滲んでいるようにも見える。


 彼には名は無い。ただ彼はこう呼ばれている。


──魔竜。あるいは人類最悪の敵。


 そして今日も彼の前には、彼を倒そうとする者たちの姿があった。


 聖剣アリスヴェリテを携えし勇者ヒーロー。呪文一つで山をも容易く吹き飛ばす魔法使いウィザード。鋼のように屈強な戦士ウォーリア。死のいざないすらも跳ね退ける僧侶プリースト


 人類最強と呼ばれる彼らは、漆黒のドラゴンを前にしても怯むことはなかった。


 戦士が無敵の盾を構える。僧侶がいかなる邪息ブレスをも跳ね除ける聖なる結界を張る。魔法使いが勇者の剣に四精霊の加護を与える。


 勇者が聖剣アリスヴェリテを構える。


「終わりだぜ、人類最悪の敵。誰にも俺の一撃をめられない!」


──対して、魔竜は挨拶代わりに邪息ブレスを吐いた。それは炎の風となって勇者一行を襲う。そしてその挨拶代わりが通り過ぎたあと──戦いは終わっていた。


 無敵だったはずの盾は跡形もなく消滅し、聖なる結界は何の抵抗にもならず、剣をかざしていた勇者はその姿勢のまま丸焼きの黒焦げとなり、勇者の仲間たちも勇者同様に決めポーズのまま黒焦げにされていた。



***



【お説教タイム】


「もう、何回言えば分かるんですか魔竜さん。一生懸命修練を積んできた最強の勇者さんをあっさりと殺してはいけません」


 魔竜の前に可愛らしい少女が立っている。その少女は人類に加護を与える女神であり、魔竜に説教をするお姉さんでもあった。


「ぐぬう。しかしあれでも一番弱い邪息ブレスなのだ」


「言い訳はダメですよ魔竜さん。少なくとも勇者さんが必殺技を使うまでは待ってください。やっとの思いでスポーツの祭典に出場したのに準備体操中に死にました……みたいな悲劇を起こしてはいけません」


「分かった。次からは気をつける」


 魔竜はそう言って謝った。人類最悪の敵は、女神の前では素直な弟なのであった。

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