Relax Melody
Sister's_tale
Relax Melody
彼女がそうなったのは今から約五年前に遡る。
不治の病から生還した朱里は『偽物の
簡単に言ってしまえば『出来ると思ったことが実際に出来る』という魔術である。
『空は飛べる』と思ったら飛べるし、『水面は走れる』と思ったら走れる。シンプル故に強力な魔術である。
そもそも魔術とは───という話は今回割愛する。
そんな『最強』の佐々木朱里には三人程、心を許した友人が存在する。
一人は古くからの親友である
そして、世界旅行の最中、アメリカの魔術大学で出会ったアリシア・プラウラーと、メリッサ・レインである。
由紀は
アリシアは史上最年少で魔術大学に入学した若き天才だ。常に難しい顔をしているが、友達思いで、時々ふざける面白い子だ。
メリッサはなんとホムンクルスらしい。表情を表に出すことは少ないが、健気で、お姉さん気質な頼れる存在だ。
『最強』であること以外はただの普通の女の子だ。
可愛いものが好きだし、流行りに敏感だし、自分を守ってくれる男の子との恋を夢に見ている。そんなやつ地球上には存在しないのだが。
今回、朱里はひょんなことからアリシアとメリッサとニューヨークのショッピングモールに買い物へ行こうという話になった。
「で、でかーーー!!」
ニューヨークでも最大級に大きな商業施設のそれは日本のものとは桁違いに大きく、朱里は思わず声を上げた。
今日の朱里は紺のブレザーにブルーのスカートに身を包んだ爽やかさと清潔感が特徴的なファッションだ。
「ら〇ぽーと何個分だよこれ……アメリカってやっぱなんでもでかいなぁ……これが普通なんだもんな……」
「日本最大のやつの約二倍だってさ」
ガーリー系の服装で幼さをアピールし、何が入るか分からない小さいカバンを携えたアリシアが答える。
「いえ、流石の私たちアメリカ人もこれは大きすぎるって思ってますよ」
水色のシャツにブルーのジーンズ、そして肩がけのレザーのバッグを持ちながらメリッサがツッコミをいれる。
しかし、こうも広いとどこの店に入ろうか迷ってしまう。
「とりあえず一通りまわりますか?」
メリッサが提案する。
朱里はタッチパネル式の地図を操作し、改めてその大きさを確認する。
「すっごい時間かかっちゃいそうだね。行きたいところ絞った方がいいかも」
「確かに……じゃあバラバラで行った方が効率がいいんじゃない? 時間決めて後で集合みたいな。好みも違うだろうし」
それはそうなのだが。それでは趣もなければ三人で来た意味もない。
「せっかく一緒に来たのですから効率は一旦忘れましょうアリシア。時間はたっぷりありますから」
「そうだね。じゃあ私はここ行きたい。望遠鏡欲しいから」
と、高学歴二人と『最強』の三人の行き当たりばったりで始まったショピングは、『施設が思ったよりも広すぎた』という初歩的な事前調査不足で幕を開けた。
まずは、朱里の希望したニューヨーク発のファッションブランドの店へと向かうことになった。
アリシアの希望が却下された訳ではなく、ただ、そっちの方が近くにあっただけだと言っておく。
「どう? これ似合うかな?」
試着室を用いた朱里のファッションショーが開幕し、無理矢理に審査員にされた二人が点数をつけていく。
格好良い系から可愛い系、不思議系など、そのスピードはマジックの早着替えの如く一瞬にして姿を変える。
最初こそ厳正な審査であったアリシアは徐々に飽きてきたのか十着目を超えたぐらいで額に
一方のメリッサも最初はウキウキで見ていたのだが、気がついたら自分の服を物色していた。
結局、一番点数が高かったデニムパンツと白のようわからん英語の書かれたTシャツだけ購入した。
「次こそ……私の望遠鏡を……」
「いや次はメリッサの魔道具ショップに行こう」
自身の意向を却下され、頬を膨らませるアリシア。
「ご、ごめんごめん。だってそのお店四階じゃん……こっちは三階だし……」
「……いーや怒ってないよ」
と、膨れっ面をやめないアリシアにミルクティーを差し出し、餌付けするメリッサ。
いつの間に買ってきたんだというツッコミは一旦置いておく。
魔道具ショップへ向かうにはショッピングモールの中心にある広場を経由してエレベーターに乗るのがいちばん早い。
広場に向かうと、何やら人だかりが出来ており、騒がしくなっていた。
「魔術は悪しき文化である!! 即刻に排除すべきだ!!」
「うわぁ……」と、心の中で声を漏らす。
魔術が人々の日常に本格的に入り込んでから早三年。まだまだ世間からは厳しい声は多い。
「人類の発展を妨げる存在だ!! 政府は何をやっているんだ!!」
魔術に関わる者として耳の痛い主張だ。
「……早く行こうか」
と、ヒソヒソと言う朱里と、それに同意するアリシアに対して、メリッサは「いえ」と、言って立ち止まった。
そして、スっと手を挙げて大きな声で言った。
「少し質問をよろしいでしょうか!!」
ざわつく人混みを掻き分けて行くメリッサ。
周囲からはヤジさえも飛んでいる。
「ちょ、ちょっと待って」
アリシアの声に振り向きもせずにずんずんと進んで行く。
「……なんでしょう」
マイクを持った活動家の男が
上手く隠してはいるが所々に
「流れを妨げてすみません。わたくしアメリカ魔術大学新魔術研究科所属のメリッサ・レインと申します。先程、『魔術は人類の発展の妨げとなる』と仰っていましたが、具体的にどういった点でしょうか」
『魔術大学』という言葉を聞いた男はふんと鼻を鳴らし言った。
「人類は科学の力で発展してきました! イギリスの産業革命が良い例でしょう! 人類が必死に考えて考えて考えて! 人々の生活を豊かにしてきたというのに! 魔術は彼らの努力を踏みにじり、努力もせずに簡単にぽんぽんぽんぽんものを生み出す! これは先人たちに対する冒涜だ!!」
「なるほど。では我々魔術師が良かれと思ってやってきたことは迷惑だったということでしょうか?」
「そういうことです! 人間は人間らしく考えて進化すべきなのです! 経済も! 医療も!」
「理解しました。……しかし、それは人類は滅亡すべきだと言っていることと同義だと言うことに気づいていますか?」
「何ぃ?」と、男は眉を
「確かに産業革命は人類にとっての確かな進歩でしょうが、それによって引き起こった汚染災害があるということは知らないはずないでしょう? ──もちろんこれも人類の手で解決の一途を辿った『美談』にされています」
「──が」、と続ける。
「地球温暖化問題──まだ魔術が日常になっていなかった頃です。あと数十年もすればツバル、キリバス、モルディブ
「……もちろん」
「おそらくここ三年程でほとんど『地球温暖化』というワードは聞かなくなったのでは? 長年、政府が足踏みを続けていたのに。調べてもらったら分かるのですが、『
その結果、緑化が進み、地球の一年の平均温度は約二度下がった。と。
アリシアは知っていたのか大きく頷いていたが、朱里は初耳だった。
「
「経済の話をしましょう! 魔術の台頭によってここ三年間で約四十パーセントもの企業が倒産しました! どう思いますか!? 魔術師は人々の職を奪います!!」
露骨に話を逸らしてきた。
「どこの情報ですか? 本当に魔術の影響ですか?」
しかし、メリッサも負けてはいない。
直ぐに相手の土俵に入り込み、追撃をする。
「タイムズスクエア経済新聞の今年の六月号に書かれていました! この数字はとんでもないですよ! ほぼ半分です!! 魔術のせいだ!!」
「元々脆弱だった企業がなくなっただけでは? それに、三年前といえば魔術商売に目をつけた起業家がこぞって魔術に手を出し始めた頃だと思うのですが」
メリッサは目を細めて言う。
「聞きましたか皆さん!? 商売が上手くいかなかったのは自らの企業努力不足だとそう言いましたよこの魔術師!! やはり魔術師は陰湿な人間たちの集まりだ!!」
こうなってしまえば話にならない。
論点をすり替え、挙句の果てには人格攻撃。
そもそもこんな活動をする者なんて面倒臭いやつしかいないのだからこうなるのは予想出来たはずだ。
「……そうですか。ならばもう何も言うことはありません。お時間とって申し訳ありませんでした」
メリッサは踵を返すと、来た道を引き返した。
モーセの海が如く人混みがメリッサの進む道を作りだす。
メリッサは朱里たちの元へ戻るとため息を吐いて言った。
「負けました」
「切ったカードが悪かったね。それに新聞というオールドメディアの情報の信用性に欠けるところを突くべきだった」
敗北を宣言するメリッサ。
あれは負けなのか?
そして、冷静に負け筋の反省をするアリシア。
「こういった場でディベートしたの初めてでした。良い経験になりました。次は負けません」
メリッサは拳を握り、天井を仰いで悔しさを滲ませる。
勝ち負けでディベートしていたのか。
「いやぁ負けてなかったと思うけどなぁ」
「ダルくなってしまったので私の負けです」
「そもそも土俵が〜うんぬんかんぬんかくかくしかじか」
ディベートの敗因を長々と語るアリシアを余所に、こういった声を生で聞けたことは良かったと確かな学びを得たというメリッサ。
まだまだ魔術に対する抵抗感は強い。
魔術で便利になるのは良いことだと思うのだが、それは朱里が魔術師だからなのか。
考えが一八〇度違うと、どうしても話は平行線になってしまう。
中世ヨーロッパを中心に巻き起こった『魔女狩り』のようにならなければ良いのだが。
気を取り直して魔道具ショップへと向かう一同であった。
魔道具ショップでお目当てのものを買い、満足気なメリッサを暖かい目で眺め、次に三人はフードコートへと向かった。
「何買ったの?」
と、アボカドが挟まったジャンキーなハンバーガーを頬張りながら言う。
メリッサはハンカチで口を丁寧に拭いて、紙袋から『半透明な石』を取り出した。
「これは?」
魔石だろうか。しかし、色がない。
属性がないということだろうか。
全く検討がつかないでいると、
「これは『月の
と、スパゲティを頬張りながらアリシアが言った。
なんでまたこれを購入したのかと疑問になっているとそれを察したのかメリッサが言った。
「名前の通り、月で採取される魔石なのですが、市場に出回ることが少ないので今回手に入ってラッキーでした」
「もし魔術が暴発してもこれがある程度吸収してくれる偉いアイテムだね」
「ええ、強い衝撃を受けると魔力を吸収し始めるという特性を持っていて、民間人用の『魔装』の素材としても重宝されています」
「吸収していくうちに色が変わっていくんだよねこの石。この色の美しさを競うコンテストが最近出来たらしい」
「へ〜」
「なんなら来週か再来週にあるらしい」
そんなものがただのショピングモールに売っているのか。
凄い時代になったものだと、ハンバーガーの最後の一口を飲み込みながら思った。
さて、これからどうしようか。と、ゆっくりとスパゲティを食べるアリシアを眺めながら言う。
「ん!」
と、左手を挙げるアリシア。
「そうですね。望遠鏡……忘れてないですよ」
目を逸らすメリッサ。
忘れてましたやん。
「じゃあ食べ終えて少し休憩したらそこ行こうか。他は……まあ後でいいか」
電気屋にも売っているらしいのだが、専門店があるらしく、せっかくなのでそちらに行くことになった。
エスカレーターで三階へと上がると、何やら下の階が騒がしいことに気がついた。
「見てメリッサ。はどーけん」
「ギャハハ」
アリシアとメリッサはカプ〇ンのポップアップストアのリ〇ウの顔はめパネルに夢中になっていて気がついていない。
朱里が吹き抜けから下層を覗き込むと、土石流のような勢いで人が出口へと向かって走っていた。
はて、何かイベントがあったか。と、首を傾げる。
しかし、そうではない明確な理由があった。
悲鳴だ。歓喜の悲鳴ではない。何かから逃げているような悲鳴だ。
朱里は直ぐに『
事故、通り魔、テロ魔、違法魔術使用者『異端者』、魔獣。
あらゆる可能性を脳裏に浮かべ、原因を探る。
───いた。魔獣だ。それに二人魔術師がいる。
だが、既に沈黙している。自分の他にも魔術師がいたのかと安堵する。
とはいえ、何かあっては遅いので吹き抜けから飛び降り、そこへと向かう。
そこにはやはり魔術師が既に二人到着しており、魔獣も完全に処理していたようだった。
「お疲れ様です。これは……」
魔獣の
「おう。『境界の
スキンヘッドの魔術師が言う。
『境界の
これを管理するのが『境界』という組織なのだが。
「地上近くに出たのを私が気づきました。直ぐに『
メガネをかけた細身の魔術師が言う。
ならばその言葉に甘えさせてもらう。と、踵を返し、三階のアリシアとメリッサの元へ向かおうとするが、魔獣の残骸に少しだけ違和感を覚えた。
「これ……どうやって倒しましたか?」
「え……私の支援魔術と……彼の炎の魔剣で」
「しょ、詳細にお願いします!!」
朱里の表情に気圧されたのか細身の魔術師は狼狽えながら答える。
「えーと、まず道路を走ってその辺の人を追いかけ回していたのを発見して、私が追いかけたんだ。そしたら、逃げてた人がここに入って行って、そこで鉢合わせた彼と協力して……」
「つまり、翼は使っていない!! そうですね!!??」
「う、うん」
瞬間───何かが建物に衝突した音と共に衝撃が朱里たちを揺らし、天井に張り巡らされていたガラスを突き破り、魔獣がけたたましい唸り声を上げて舞い降りてきた。
魔獣は先程のと姿形は似ているが、その大きさが桁違いだった。
「……そうか! 『
スキンヘッドが叫ぶと同時に朱里が稲妻の如くスピードで距離を詰めると、親鳥の
その代わりに
親鳥の沈黙を確認したところで
「おーい大丈夫かー!?」
と、上からアリシアの声が聞こえてきた。
彼女の背後には逃げ遅れた人たちが大勢いた。
おそらくメリッサが彼らを庇っていたのだろう。
朱里は彼らに手を振って脅威は去ったことをアピールした。
すると、出入口の方からひとりの女性が朱里に向かって必死に走ってくる。
女性は魔獣の死骸をお構いなしに近づくと、朱里の肩を掴み言った。
「男の人がさっきのモンスターに連れ去られたの!! 助けてあげて!!」
もう一匹いたのか。
「アリシア! メリッサ! まだいるらしい!! 皆を守ってあげて!! 空に飛んで行っちゃたの!!」
手すり越しのアリシアが大きく頷く。
細身とスキンヘッドが駆け足で寄ってくる。
「貴方たちは他の人が襲われないように警戒しておいて!!」
「お、おい! どうやって追うんだよ空飛んでるんだろ!? 他の魔術師の援護を待った方が良い!」
「そんなこと言ってないで早く助けてよ!! 彼、高所恐怖症なの!!」
口振りからしてこの女性の知り合いだろうか。
厚い化粧と
朱里は女性を引き剥がすと、細身に預ける。
細身も匂いにやられたのか顔を
「その魔獣はどっちに行ったの?」
女性は「あっちよ」と、西側を、タイムズスクエアの方角を指差す。
それはまずい。ここよりも遥かに人口が多く、そんな所まで行ってしまえばこことは比にならない程の混乱は免れない。
「ありがとう」
と、朱里は跳び上がり、三階へ着地する。
そこにはアリシアとメリッサが一般人を落ち着かせているところであった。
「アカリ!!」
真っ先に気がついたアリシアが朱里に近づいていく。
「ごめんちょっと行ってくる。下に魔術師がいるから早めに合流した方がいい」
「わかった」
朱里が天井に空いた穴に向かって飛び出そうとしていると、
「アカリ」
と、メリッサが何かを朱里に投げ渡す。
それは先程メリッサが購入した『月の
「何かの役に立てば」
「ありがとう! なるべく使わないように頑張る!!」
そう言い残し、朱里はニューヨークの空へと飛び上がった。
高層マンションを遥か下に見るほどの上空から朱里は魔獣を探す。
「タイムズスクエア方面……いた」
その
朱里は空気の『面』を捉え、空を駆ける。
空を飛べない訳ではない。
もし、朱里に
走るよりも飛ぶ方が速いというイメージが湧かないと言うだけだ。
それが間違いではないというように朱里はぐんぐんと魔獣との距離を詰める。
そして、まさに魔獣と並走する直前あることに気がついた。
「こいつさっきの魔術アンチやんけ!!」
──死んでないよな? うん、死んでない。
魔獣は朱里に向かって甲高い声を上げ威嚇する。
「うるせぇ!!」
耳に指を突っ込み、対抗して大声を出す。
一人と一匹の声に反応したのか活動家の男が目を覚ました。
「うおおおおおああああ!!! ぼく、ぼくどうなってんのこれええええ!!!!」
「落ち着いておじさん!」
並走を続けながら朱里は男を
この場でパニックになって落下でもしたら大変だ。
「今から助けるから! ほんとに! 落ち着いて!!」
「落ち着いてられるかあああああ!!! それにぼくはまだ二十九だあああああ!!!!」
え、と思わず声を漏らす。
やっぱり色々考えたり批判したりすると老化するのが早かったりするのだろうか。
「ご、ごめん……そ、そうだ! これ! 持っといて!」
と、朱里は男にメリッサから受け取った『月の
朱里の魔力は強大だ。もし、何かあったとしてもこの魔石が守ってくれる。──はず。
朱里はこの魔石を破壊する自信がある。まあ無いよりマシだ。
「は!? は!? なに、なんなの!? なにこれ!?」
「よ、よし今から助けちゃうぞーー!!」
訳が分からず喚く男を他所に朱里は空気を蹴り、魔獣の上に位置をとる。
魔獣を先に倒すと、男と共に魔獣が落下して危ない。
逆に男を先に助けると、魔獣が野放しになってしまう。
だから、『倒す』と『救う』を同時に
朱里の魔術の『偽物の
しかし、それは自分と、自分が
だからこその力加減が必要だ。
『殺しつつ救う』。
魔獣は朱里を警戒してか翼をたたみ、急降下する。
男には凄まじいGがかかり、間違いなく相当なストレスなはずだ。それだけではない意識を失ってしまう可能性がある。
短期間で何度も意識を失うと脳に深刻なダメージを負ってしまうこともある。
朱里も人間だ。友人のメリッサに恥をかかせた男になんの感情もない訳ではない。一度痛い目を見ればいいと思っている。
生きて、魔術師に命を助けられた癖に魔術を批判し続けて、恥知らずな人生を送ればいい。
朱里は時が進むよりも速く魔獣に接近し、男を掴む
魔獣は金切り声を上げ、バランスを崩したが、直ぐに鋭い眼光で朱里を睨みつける。
「おぇぇぇぇ!!!」
男も驚愕の雄叫びを上げる。
朱里は近くのビルに男を投げ捨て、同様に魔獣を睨む。
魔獣は朱里の威圧感、そして生物としての直感に当てられたのか背中を向けて逃走を測った。
「お、おい逃げるぞ!!」
「わかってる」
マッハを超えたスピードで飛行する魔獣。
完全に朱里たちの姿が見えなくなり、本能的に安心したその時。
世界最強の
残された魔獣の肉体はその機能を停止させ、市街地へと落下していく。
残骸が地面に接触し、その身体をバラバラにさせる直前────
「───っと」
朱里は魔獣の身体を受け止めた。
魔獣とはいえ、こちらの世界へ迷い込んでしまった彼らもまた被害者なのかもしれない。
死骸の前で
「おーい大丈夫かーー!!!」
魔獣の発生を聞きつけた管轄の魔術師が駆けつける。
「あ、終わったみたいですね。良かった」
「……君。報告お願い出来る? あたし実は非番なんだよね今日」
「いいっすけど……どう報告すれば?」
朱里はゆっくりと立ち上がり言った。
「『切札』が全て解決した。と」
あの後、ショッピングモールへと戻り、二人と合流した。
魔獣被害により、買い物の継続が難しくなってしまい、泣く泣く帰宅することとなってしまった。
望遠鏡を手に入れることが出来なかったアリシアの表情は、面白すぎて今でも笑えてくる。
あの男はと言うと、あの後直ぐに病院へ運ばれた。
心身ともに異常はなく、「助けられた恩はあっても活動は続ける。それとこれとは違う」と病室であの香水がキツかった女性に寄り添われながら活動を続ける
朱里はそれで構わないと返事をして、病院を去った。
一週間後、アメリカ魔術大学のメリッサたちの研究室に遊びに来た朱里はそのことをメリッサに語った。
当のメリッサはと言うと、「ああそうですか」と、興味がなさそうな返事をして、自身の研究の手を止めることはなかった。
何気なく研究室に常設されていたテレビを点ける。
とあるニュース番組が液晶に映し出され、キャスターの女性が明日の天気をお知らせしている。
場面は移り変わり、先日行われた『月の
これは、アリシアが言っていたやつだろうか。朱里は頬をつき、その様子をぼーっと眺める。
色彩豊かな作品から、黄金に輝く一番星をイメージした作品、黒だけの和風イメージの作品など様々であった。
金賞は『トーマス・ウィルキンス』の『破壊者』。
『月の
「……コイツっ」
朱里は受賞者の顔を見て苦笑いを浮かべた。
金賞のトロフィーを受け取ったのはあの日の活動家の男だった。
Relax Melody─完─
Relax Melody Sister's_tale @Sisters_tale
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます