もしも来世があるなら

11800歳

もしも来世があるなら

「来世があるならまたどこかで会いましょうね」

病室、ゆったりとした昼下がり君は息をしなくなった

最後に告げた言葉は今でも覚えている

もしも、来世があるなら

今から話すのはそんな架空の話


───


鍵穴に鍵を差し込め右に回す

重い音を鳴らし、ドアを開ける

久しぶりの我が家だ


(最近は忙しかったからな)


なかなか着ない喪服を脱ぎながら家の中に入る


「ただいま」


返事が返ってこない事になれず違う家に入ってしまったのではと思うが、足裏の冷たいフローリングが我が家だと突き付けてきている気がした


───


ピリリリピリリリ

電話の呼び出しで目が覚めた

手探りで音の原因を探す

スマホの画面を見るに電話を掛けていた相手は同僚だった

変な使命感でかけてきたのか、それとも正義感か

まぁ、どっちでもいいが

まだ起きていない頭を起こし電話に出る


「もしもし」

『おい大丈夫か?』

「何がですか?」

『彼女さんの事だよ』


やっぱりなんて思いながら受け答えをする


「ええ、まぁ一通り葬式は終わったんで」

『そうゆう事じゃねぇって』

「はぁ…」

『お前が大丈夫かって聞いてんだよ』

「あー…まぁまぁって感じ」

『……無理はすんなよ?今度奢るから飯行こうぜ』

「了解…」


そう言って電話を切った

もう一度眠りに戻ろうとした脳を無理やり働かせこれからを考える

まず、前提条件として今日は休みを取っていたはず

さて、今日の過ごす内容を決めよう


(何もしたくねぇ…)


脳がひねり出した答えはこれだった

このまま惰眠を満足するまでむさぼり続けようか

だが、人間誰しもなにかやらなければ、いけないことが一つくらいはある

今の自分にはやらなければいけない事が山積みだ

洗濯に掃除、風呂にまだ終わっていない遺品整理などなど

最後のが特に面倒そうだ

何もする気にはなれずスマホともう一度見つめあうことにした

ふと今何時、と思いスマホの時計をみたら昼過ぎを指していた

どうやら自分は昼まで寝ていたらしい

まぁ、そんなことはどうでもいいが


『来世があるならまたどこかで会いましょうね』


思考を放棄しかけていた頭が、彼女の言葉を思い出させる


(来世か)


ふとXで来世と検索する

しかし、出てきたものは知らないアニメキャラのイラストやカップリング、出会い厨ばかり、落胆しスマホをベッドに伏せる


(来世があるなら君ともう一度付き合いたいな)


なんて、もしもの話を考える

もしも、来世があるなら、また同じように数合わせの合コンで出会って

雪の降るクリスマスに駅前のネオンライトの輝くツリー中で再会して

初めて2人で出かけた水族館に行って

そして自分が再会した場所で告白をして付き合って

同棲をして、君が好きなアイドルのライブに一緒に行って

君は病気で


(ま、もしもの話だし)


そう思い妄想を辞める

泣きそうな自分の気持ちを無視して、夢の中へと逃げようとした

その時ふと一つだけやりたいことを思いついた


───


歩いて歩き続ける

合コンで行った居酒屋

流石にお酒を飲む気にはなれないので、お店の写真だけ撮った

その次は駅前のツリー…は再会した時のように輝いてはいなかったけど、せっかくだし写真を撮る

次は水族館、チケットを買って魚達を見る

太平洋エリアに大西洋エリア、深海エリアを通り過ぎてふれあいエリアにいく

君が好きなペンギンの写真は撮れなかったけどメモ帳にペンギンの絵をかいた、そして売店でペンギンのぬいぐるみも買った、ちょっと大きめのやつ

次はライブ会場

何もやってなかったけど、君と一緒に行ったことがあるというだけで、何だか大切な場所だと感じる、そんなことを思いながらシャッターを切る

ちゃんと取れた事を確認し急ぎ足で家に帰る

早くもっと早く急がなければ

別にそんなに急がなくてもいい、何にもせかされていないはずなのに

ガチャガチャと急いで鍵を探し、家に入る

靴が散乱するのもお構いなしに、急いで机に彼女の写真と遺骨を置き、さっき撮った写真たちを並べる

そして、荒い息を整えながら写真の中の彼女に話しかける


「初めて出会ったのは合コンだったよね」

「僕は数合わせだったけど、君はどうだったのかな?」

「君は可愛かったから、ちゃんと呼ばれてたりして」

「その次は駅前のツリーだったよね」

「そこで君と出会った時、僕運命感じちゃった」

「合コンの時は可愛いなぐらいしか思わなかったのに、不思議だね」

「そうだ、初デートで行った水族館覚えてる?」

「僕そこでぬいぐるみ買ってきたんだ」

「君が好きなペンギン、メモ帳に絵描いてきたんだ下手かもだけど見てくれると嬉しいな」

「あと、君が好きなアイドルがライブやってた所にも行ってきたよ」

「何もやってなかったけど、僕には大切な思い出の一つだからね」


そこで言葉が止まる

なんで、言えなかったんだろう

彼女の病気が急に分かったから?

彼女が寝たきりだったから?

準備ができてなかったから?

違う、僕が弱かったから


「あなたの事が好きです」


逃げて逃げ続けていたから

ああ、なんで君に伝えられなかったんだろう

なんで、君の写真すらも見つめられないのだろう


「あなたを一生かけて愛しますだから」


手が震える

嗚咽が出ないように唇を噛む

頑張って言えなかった言葉を喉から捻り出す


「僕と結婚してください」


もしも来世があるなら、君にそう伝えたい

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