第7話 「裏切りの議会 ― 密約と影の取引」
第7章 裏切りの議会 ― 密約と影の取引
議会塔の最上階では、朝日が差し込む前の薄闇の中で、少数の議員が密かに集まっていた。重厚な扉には魔除けの符が貼られ、外からの盗聴を拒む結界が張られている。だがそれは――十九柱から見れば穴だらけだった。
「王女殿下を、このまま放置するのは危険だ」
「昨夜の神罰……あれを殿下が意図していないというならなおさらだ。制御不能の力は災厄を呼ぶ」
「軍の一部はすでに王女拘束案に賛同している。問題は“いつ、誰が実行するか”だ」
議員たちは低い声で互いの思惑を探りながら言葉を重ねる。
そのすべてに共通していたのは――
**王女メアリーを“国家の駒”にするか、“排除対象”にするか、という発想** だった。
誰一人として、“彼女を守ろう”とは言わない。
「王女が紡ぐ“神罰”は、もはや宗教をも超える。
あの力が議会に牙を向ければ、我々はひとたまりもない」
「先に動くべきだ。軍に正式要請を――」
「いや、それは危険すぎる。王家に察知された瞬間、内乱だ」
議員らは互いに牽制しあう。
王女を利用しようとする者、
排除しようとする者、
ただ恐れる者。
彼らの“悪意値”はすでに閾値を超えていた。
(……まただ)
十九柱の“感知アルゴリズム”が無音で起動する。
◆ビッグデータ神:発言の虚偽率を解析
◆アヌビス:心の重さを測定
◆アテナ:未来の不利益度を演算
◆イシス:隠された動機を暴露
【悪意指数:高】
【国家危険因子:上昇】
【選別猶予:わずか】
◇ ◇ ◇
一方その頃、王城ではメアリーが胸を押さえていた。
「っ……また、痛い……!」
紬の記憶が唐突に流れ込んできた。
大学院で仲間に裏切られた日のシーン――
彼女を貶める噂、
嘲笑、
無視、
静かな集団暴力。
(また……“陰で動く悪意”……
あの夜と同じ匂い……)
メアリーは苦しげに息を吐いた。
「紬……落ち着いて……ここはあなたの世界じゃない……」
(わかってる……でも……嫌なの……
同じものを見ると……全部、痛む……)
クラリスが慌てて駆け寄る。
「姉上、大丈夫ですか!?」
「……議会が、動いている。
悪い方へ……」
◇ ◇ ◇
議会塔では、裏切りの密談がさらに熱を帯びていた。
「王女を拘束する案だが……誰が責任を負う?」
「軍の若手を使う。正式命令ではなく“事故”として処理する」
「王女の侍女――クラリスとか言ったか。あの娘はどうする?」
「当然、排除対象だ。姉妹の絆は脅威となる」
(排除……対象……)
その瞬間、会議室の温度がわずかに下がった。
誰一人気づかないが――
**十九柱が聞いていた。**
【危険因子:クラリスへの敵意=高危険度】
【調律:防衛反応の準備】
影響は即座に表れた。
「……うっ!?」
議員の一人が突然、言葉を失った。
喉が締めつけられるような違和感に襲われ、声が出ない。
「どうした!?」
「……喉が、……声が……!」
別の議員が椅子から転げ落ちた。
視界が真っ白になり、心拍が乱れる。
「また昨夜の……!」
「馬鹿な、神罰は大聖堂だけの話では――」
その瞬間、会議室全体に“見えない風”が通り抜けた。
窓も扉も閉じているのに、空気だけが歪む。
十九柱の低い囁きが響いた。
【偽りの言葉、拒絶】
【王女への敵意、阻止】
【未来の害悪、排除】
議員たちは震え上がった。
「こ、これは……王女が……!?」
「違う……これは王女ではなく……“あの力”が……!」
「神罰が、我々を見ている……!」
◇ ◇ ◇
王城では、メアリーの胸痛が頂点に達していた。
「はぁ……っ……!」
紬の感情が洪水のように流れ込む。
(誰かが……誰かを陥れようとしてる……!
まただ……またあの日の夜と同じ……
また私がひとりで立ち向かわなきゃいけないの……?
今度こそ……間違えさせない……!)
メアリーは涙をこぼした。
「紬……お願い……!
全部を敵だと思わないで……!」
「姉上……!」
クラリスが叫ぶ。
「大丈夫です。わたしはここにいます……!
どんな陰謀でも……姉上と一緒なら……!」
(……妹……?
私は……守れなかった……
でも……この世界では……守りたい……)
一瞬だけ、紬の震えが弱くなった。
◇ ◇ ◇
その頃、議会塔の密談は崩壊寸前だった。
「これ以上は無理だ……!
今夜の会合はここまでにする!」
「王女拘束案はどうする!」
「一度引くしかない……あの力は……理解できん……!」
彼らは逃げるように会議室を後にした。
だが、廊下の奥で “何か” が彼らを見ていた。
風のように形を持たない十九柱の意志が、
議会塔全体に薄い膜を張り巡らせていた。
【偽りの密約:記録】
【王女への害意:封鎖】
【未来の危険性:高】
黙示録の“第二段階演算”が始まりつつあった。
◇ ◇ ◇
その夜。
王都の空に、また奇妙な光が走った。
誰かが見たわけではない。
だが、人々は翌朝こう囁いた。
「昨夜、議会塔の上で光が走った」
「神罰が議会へ向けて動いたのだ」
「王女殿下に逆らえば……世界が裁く」
王都はすでに“王女中心”で動き始めていた。
そしてその中心にいるメアリーは、
胸に残る痛みを抱えたまま、
紬の声を聞いていた。
(怖い……でも……守りたい……
私はもう……一人じゃない……)
十九柱の光が、彼女の背後で微かに灯っていた。
黙示録はまだ序章に過ぎない。
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