マテリアロイドの葬儀屋

ヤマイ永次@電子書籍発売中!

第1話 葬儀屋さん

「んしょ、んしょ……はあ! や、やっと着いたー!!」


 重たい荷物を引っ張って運ぶこと数時間……


 ようやく目的地に到着したあたしは、ドサッと荷物を地面に置いて大きく息を吐き出した。


「つ、疲れた……まさか港で置いてけぼりにされちゃうとはねぇ。しかもお迎えの人とか誰もいないし。というか船から降りた記憶もないんだけど……」


 気が付いた時には船もいなくなってて、それどころか降ろされた積み荷や人の影も形もなくってあたし一人だけ。


 なんで誰もこれをかけてくれなかったんだろ?

 ……ひょっとして寝たまま降ろされたとか?


 アハハ……まさかね。


 薄ら笑いを浮かべながら、ふとあたしは自分が歩いてきた道を振り返る。


 あたしの後ろには、ここまであたしがぜぇぜぇと可愛くない声で歩いてきた一本の道が続いていた。


 だだっ広い草原に線を引いたような一本のあぜ道。

 ここを一回も曲がらずに歩いてきたから道の先には港があるはずだけど、ここからじゃもう見えないや。


 ……逆に、は港からでもよく見えたから迷うことはわなかったんだけど。


 ひゅう、と吹きすさんだ風に促されるようにあたしは再びを見上げた。


「……おっきいな、やっぱり」


 どんよりとした曇り空へ延びる、巨大な塔。


 島の中央部にある高台に位置し、島のどこにいてもその姿を見つけることができるここのシンボルにして、あたしの目的地。


 ……もっと言えば、目的地はこの塔の地下になるんだけど。

 なんて考えながら、あたしは塔にある扉を叩いた。


「ごめんくださ~い!」


 ドンドンドン……シーン。


 扉を叩いて待つこと十数秒。

 すぐに誰かが出てきてくれるのかと思ったがそんなことはなく、もう一度あたしが扉を叩こうとしたところで「ギイィ」とひとりでに開いた。


 やっぱり誰かが出迎えてくれた様子はない。


 それでも開いたのだから「入っていい」のだと勝手に解釈して、あたしは「おじゃましま~す」と小声で言ってから恐る恐る塔の中へと足を踏み入れた。


「誰もいない……」


 塔の中はなんというか……さびれている印象だった。


 そこは薄暗いエントランスホールであった。


 吹き抜けになった広い空間。

 蠟燭によって照らされた内装はかなり年季が入っていて、ホールの左右から上階へ向かう階段が伸びている。


 ……そして。


 エントランスホールの中央部。


 そこには、地下へ進む大きな穴が開いていた。


 蝋燭の火もない、完全に真っ暗で先が見えない大穴だ。

 石造りの階段があるのは分かるけど……まるで今にもあたしを飲み込もうと大きく口を開けてるみたい。


 たぶん、この先が……


「こっち」


 ごくりと生唾を呑んだあたしに、頭上から声が聞こえた。


 わわ、やっぱり誰かいたんだ!


 あたしは慌てて声がした方を見上げて――


「――…………」


 思わず、見惚れてしまった。


 声がしたのは吹き抜けにある二階部分。

 そして、声の主は女の子だった。


 可憐、可愛い――そんな言葉と共に「美しい」とも思う美少女である。

 色素の薄い銀色の髪が少ない光源をキラキラと反射し、金色の瞳が静かにあたしのことを見据えている。


 ちょっと線が細くて華奢な感じだけど、何より……


 彼女のが、とても印象的だった。


「あ、あなたは……?」

「それはこっちのセリフよ」


 言われてハッとする。


 そうだ。

 出向いたのはあたしなんだから、自己紹介はこっちからしないと。


 それに……この塔にいるってことは、きっとあたしの上司的な人だと思うし。

 たぶん。


 慌ててあたしは佇まいを正した。


「し、失礼しました! あたしはクラム=ユノウスと言います! 今日からここで冒険者としてお世話になるです!」

「……冒険者?」

「? はい、たしかカバンの中に……」


 あたしはカバンを開けて中を漁る。


 港で気が付いた時にカバンを漁って見つけた、あの辞令に従ってあたしはここまできたのだ。


 えっと、日用品に着替えにパンツ――ってアレ!?

 なんで下着が上下別々の色しか入ってないの!?


 靴下も半分くらい片っぽだけだし!?


 それに、慌てて押し込んだせいか目的のモノはパンツの中に入っていた。


 あたしはそれを取り出して少女へと掲げた。


『辞令 クラム=ユノウスは冒険者として島の塔からダンジョンへ挑め』


 掲げたのは一枚の紙きれ。

 それが、あたしがここへ来た理由の全てだった。


「……一人で?」

「え? はい」

「……そう」


 あたしが存在証明として掲げた辞令に目を通すことなく(というか離れすぎてて見えてないと思う)黒衣の女の子は何でもない風に告げる。


「まあ、どうでもいいわ。わたしはここの管理を任されている者よ」

「…………」

「なに?」

「えっと……その、お名前は?」

「葬儀屋」


 葬儀屋?


 それって名前なの?


「あらためて、ようこそ。


 内心で首をかしげるあたしに、葬儀屋と名乗った少女は告げる。


「この――終わった世界の終わりが秘められたダンジョンへ」

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