The world of rights 【わるらい】

SAKURA

序章 カラスト街襲撃編

第1話 ラウルーレンス・アスランの朝

チュンチュン


カーテンの隙間から差し込む太陽の光が顔を差し、外から鳥の元気に鳴く声が聞こえる。


「夢…?」


もう朝か、と寝ぼけた頭を段々と働かせて重たい瞼を開けるために目を擦った


レンガ造りの集合住宅の一室で俺はゆっくり身体を起こした


最初に向かうのは洗面所。寝起きのせいか足元がおぼつかずにフラフラと歩き欠伸もまた自然と出てきた


蛇口を捻って冷たい水を両手のひらにためて顔を洗い、側に置いてあったタオルを手に取り濡れた顔を拭いて鏡を見た


「ふぅ……」


鏡に映るのは自分自身。寝癖のついた黄金色の髪に赤い宝石のような瞳を持った青年。最近、近所の人たちも口を揃えて言う、顔の良い青年。と


顔を洗って意識もしっかりとしてきて目も冴え始めた所でキッチンへと足を運び朝食の準備を始めた


両親は居なかった。

父親は研究の仕事で家に帰ってくることはあまりなかった、母親も居た、数年前までは…


こことは違う街、いわば俺の故郷という街。カラストという街で俺は暮らしていた。


父親は毎月家族に現金の仕送りをしていた。その額は2人が十分に暮らしていける額であり、贅沢だって出来た。


彼が帰ってくるのは数ヶ月に一回、それも3日間ほどの滞在だった。帰って来ても本人の自室である書斎から出てくる様子はない。

同じ屋根の下で暮らしていても滅多に顔を合わせることはなかった。

食事も一緒には食べず、いつも母親が部屋まで運んでいき、数十分後に部屋の前に置かれた空の食器を回収していた。


物心ついたときからそのような生活を送っていた。

覚えている限りでは父親が子供の俺を抱き抱えたりすることはなかった。

昔、一度だけ書斎へと入っていく背中を見てそれについて行ったことがあった、父親が開けた扉に一緒にこっそりと入ると扉を閉める時に俺がついて来たことに気がついて目と目が合った。


その目は決して自分の子供に向けるような目ではなかった。仕事の疲れのせいか白髪が目立ち始めた黒髪に、微笑みもせずただ平然としている表情、温度の感じない冷酷な黒い目。再び扉を開けて出ていくよう促され、そのまま部屋から追い出されたのを今でも覚えている。


母親は笑顔が優しい人で綺麗な長い黄金色の髪と赤い瞳を持っていた。俺は母親似だった。


小さい頃から一緒に遊んだり家事をしたり料理も作った。外へ行って買い物について行ったり公園を散歩したりもしていた。俺がいつ何時も離れる様子がなかったので母親も内心困っていただろう。


幼い頃は天日干しした布団で一緒に寝るのが好きだった。柔らかい声で子守唄を歌い2人揃って寝るのが週末の風景だった。


でもそんな日常はもう送れなくなってしまった。


ある日突然、母親が腹痛を訴えながら倒れた。

身体をどれだけゆすったり「お母さん!?」と呼びかけても動く様子のない母親を見て、俺はどうしたらいいのかわからずに「だれかたすけて!」と泣き叫ぶしかなかった。


ドンドンドン!


その声を聞いた隣人のおばさんが力強く家の扉を叩いた


「アスランさん!大丈夫!?」

「開けるわよ!?」


俺の泣き叫ぶ声が止まないのを聞くとおばさんは扉を開け、駆け足で部屋に入ってきた。

倒れて動かない母親とその近くで泣き叫ぶ俺を見たおばさんはすぐに駆け寄ってきた。


「アスランさん!?アスランさん!?」


強く身体を揺らして呼びかけても反応がなかったので彼女は集合住宅の住人に届く大声で助けを求めた


「誰かー!!来て!!アスランさんが倒れたわ!!」


その声を聞いた近くに住んでいる他の住人も只事ではないと感じてやって来ると、その中に医者をやっている住人がいた。


彼は母親の元に駆け寄るとその容態を確認した。


「まだ脈はある、!気絶しているだけか…?とりあえず病院へ!」


即座に判断した医者の言う通りに隣人のおばさん達が母親を運び出して病院へと連れて行った。


俺も一緒について行き、病院の待合室で数時間待っていた。とても心配だった。昨日まであんなに元気だった母親が突然倒れたのだから。

いつもなら目を惹かれる街中の露店も全く感心が向かず心にポッカリと穴が空いているようだった。


「君がラウルーレンス君だね?」

「お母さんの病室に来てくれるかな?」


年配の医師に呼ばれ、こくりと頷き、母親が寝ている病室に向かった。


「お母さん!」


扉を開けて貰うと俺は泣きながらそう言い病室を見回しながら病室を奥に進んで行くと窓際のベットに母親は寝ていた。


まだ母親は寝ているようで目を覚ます様子もなかった。


その日は夕暮れまでベッドの隣の椅子に腰掛けて母親が起きるのを待っていたが目を開けることはなかった。


病室に隣人のおばさんがやってくると、俺を引き取っておばさんの部屋に泊まることになった。


おばさんが医師から話を聞いたところによると母が倒れた原因はわからないということだった。


いつもと違う料理の味や部屋の匂いにも不安を覚えて一晩中涙は止まらなかった。


その次の日も、そのまた次の日も、母親が目を覚ますことはなかった。


それから二週間後。母さんは帰らぬ人となった。

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