浅田のベースボール

タッカーP

就任

プルルルル プルルルル ガチャ


「もしもし、浅田ですけど」

「ハロー、アサダ、今日は君に頼みがあってきたんだ。シカゴホワイトストッキングスの監督をお願いしたいんだが」

シカゴホワイトストッキングス。現役時代10年間のメジャーリーグの生活で俺がずっと所属していたチームだ。大都市シカゴに本拠地を置きながら人気がなく、4年連続で年間100敗以上をする弱小球団だ。

「飛行機嫌いなんで勘弁してください」

「は?」

「メジャーで一番つらいのは、飛行機移動で時差ボケが続くことだろ。あれをまたやんなきゃいけないのは耐えられないって」

「チームを強くすることへの自信はあるようだな」

「そんな話してないだろ」

「頼む、日本人監督で行きたいんだが我がチームに所属した日本人はお前しかいないんだ」

確かにそうだ。俺はせっかくメジャー挑戦するなら日本人のいるところに行きたくなくて、シカゴに渡った。移籍して変な期待を持たれるのも嫌だし、毎登板強い相手と戦えるということで移籍もしなかったが結果はこのようになった。


1年目  8勝13敗 176回155奪三振 防御率3.35

2年目 10勝9敗 185回172奪三振 防御率3.11

3年目 14勝8敗 202回195奪三振 防御率2.64

4年目 11勝12敗183回2\3170奪三振 防御率3.41

5年目 8勝13敗 166回145奪三振 防御率3.86

6年目 5勝8敗 85回1\362奪三振 防御率4.66

7年目 7勝14敗 165回130奪三振 防御率4.02

8年目 9勝13敗 172回160奪三振防御率3.84

9年目 9勝15敗 155回140奪三振.防御率4.57

10年目 7勝5敗 90回82奪三振 防御率4.06


通算は88勝105敗と負け越し。勝ち星だけで見ればそれなりに勝っているし、大きな手術なく現役生活を終えたことは誇りに思っている。しかし、頂点の景色を見ることができなかった。心残りはあるものの古巣にそれを見出すことは非常に困難であった。

そして、[客寄せパンダならやらないっすよ]と言い電話を切った。


それから数日間、GMとの交渉は続いた。その都度断ってはいるものの日本人初のメジャー球団の監督という響きと現役時代に届かなかったワールドチャンピオンへの未練をGMは感じ取っていたのかもしれない


[頼む!練習方法、作戦はデータ班ではなくアサダに任せる。責任を押し付けられるのが嫌なら否応なく勝敗の責任をとらざるを得ない仕事量をこなしてもらう]

この発言で俺はやる方向に傾いた。

本来メジャーリーグの監督はただの現場監督に過ぎない。求められるのは試合前後のメディア対応とモチベーターみたいなものだ。しかし、練習方法や作戦まで指示できるとなったら話は違う。

『自分がチームを勝利に導いた』という達成感を味わうことができる。ここでようやく俺は

[何年契約ですか?]と伝えた。するとGMは

[3年だ]と言った。すると私は口をついて

[そんな長くやりたくないから単年でいい。ただポストシーズン行ったら契約延長の話をしましょう]と伝えた。


そこからは下調べが始まった。スタッフから今シーズン所属する選手全員の昨年の成績を確認した。

[これは改めて見ると酷いなー]

俺がまず驚いたのはチーム成績。チーム総得点は486点に対し、総失点は910と得失点差がマイナス434点。投打が噛み合わないどころか崩壊している。タダで出塁を許してしまう四死球もリーグワーストと勝負ができていない。

そして、試合の映像を観ると負けがこむと試合中でも談笑している場面が映し出されていることが多くなっていた。負けに慣れすぎて悔しさがなくなってしまっている典型的な弱小チームのメンタリティになっていると感じた。


そしていよいよ2月15日、アリゾナで2週間のキャンプが始まった。集合をかけてこう宣言した

[Hello everyone nice to meet you.We play to win!GO TO the WORLD CHAMPION!]当たり前だが、最初から優勝を目指さないチームに勝利はない。しかし、選手達は生返事だけしてすぐに練習に戻っていった。

[待てコラ!馬鹿言ってると思ってるだろ?だからダメなんだよ!負けてお客さんを返すことに慣れきっちゃいけないんだよ!恥を知れ!ということでお前らまずは2人1組になれ!ポジションはどうでも良いから]

選手たちは戸惑いながらも組んだ。

[お前らには今から野球拳をしてもらう。何回かやってもらって負けてパンツ一丁になるまでやってもらう。そして、パンツ一丁になった奴らは浜辺で練習。買ったやつはグラウンドで打撃練習やバッティングピッチャーをやれ!]

[は?警察に捕まるだろ]

[警察には無理言って数人配置してもらってる]

[そういう問題じゃないだろ]

[とにかくやれや]

10分後ロースター枠40人のうち20人がパンツ一丁になった。

[じゃあ行ってらっしゃい]

警察を配置しているというのは嘘である。選手たちはすぐに捕まり、それを指示した俺はそれなりの額の罰金を払うことになった。

試合で負ける前に人間として負ける恥ずかしさを伝えるには効果テキメンだったが、1番ダメージを負ったのは俺の懐だった。


しかし、この野球拳をした目的は他にもある。練習の待ち時間を作らないことだ。

そして、キャンプインから10日後にはオープン戦(練習試合)も始まってしまうため早急に自チームのデータを取るために人数を毎回絞る必要があった。


何日も続けて野球拳で負けてしまった時はどうすればいい?と思ったそこのあなた。3日で終わるし、午前と午後で分けてるから大丈夫。全員ちゃんと見ています


キャンプインから3日が経ち、練習の仕方にも弱いチームの特徴があることがわかってきた。


まずは投手陣。投球練習場のブルペンでは一球投げては自分の球の良し悪しを機械で確認している。これだけを見れば丁寧に練習をしているように見えるかもしれない。

しかし、毎球違う変化球を投げる者、機械を確認して投げるを繰り返した結果、良いボールが投げられるまで練習を止めない者の2通りしかいなかった。つまり、自分の長所もわからなければ自分の投げる球の良し悪しを自分で判断できていないのだ。

次に野手陣、フリーバッティングで気持ちよく飛ばしている。よくニュースでもあるフリーバッティングで柵越えやスタンドインした数紹介。あれほど無意味なニュースはない。好きなところにばかり投げてもらってそれを打つというのは、今年作られたボールがちゃんと飛ぶかどうかのボールの製品確認以上の意味はない。大谷翔平のように普段から室内で練習している人間が外での見え方を確認するという目的ならはいいが、試合では相手は打たれないように相手の嫌いなところばかり投げようとしてくるのでフリーバッティングで飛んでいるからといって満足されては困るのだ。


俺は更なる改革を行うことにした。

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