ドジっ子魔法少女を保護しました
夕霧蒼
第1話 空から女の子が落ちてきました
「この天気ではお客さんは来れないわね」
実家の一階を改装して開業した喫茶店の窓を眺めがら、母親がボソッと呟いた。
外は暴風によって横殴りの雨が降り、同時に雷鳴が鳴り響いていた。
こんな悪天候な日に喫茶店に来れる人と言ったら、もう隣人くらいだと思う。
「もうお客さん来る気配ないし、お店閉める?」
「そうね。 少し早いけど店仕舞いをして、ここでゆっくりと紅茶でも飲みましょうか」
「そーー」
そこは自宅に戻り、リビングでゆっくりしようよと言おうと思ったけど、途中で言うのをやめた。
「そうだね。それじゃあ、俺は入り口の看板を「close」にしてくるよ」
「雨強いから無理はしないでね」
「内側でやるから大丈夫だよ」
母親にサムズアップをしてから、俺は店の入り口へと向かった。入り口に近付くと、外から地面や壁に雨が打ち付ける音が聞こえてきた。
これは少しだけ濡れる覚悟がいるかもな。
そう思いながら扉を開けて、そこから少しだけ腕を伸ばして扉に掛けてある看板を手に取った。
そのまま看板を裏返して、再び扉に掛け直した。
雨やばすぎだろ。もしも扉を全開にしていたら、店の中にまで雨が入ってきてびしょ濡れになるところだったよ……。
そんなことを思いつつ店の中に戻ろうとした瞬間ーー暴風雨の中に一際光を放つ物体が見えた。
な……なんだあれは。
空で光り輝くものといえば流星が思い浮かぶけど、あれは全くの別物だと確信が持てる。
そもそも暴風雨で普通の星すら見えないのに、流星が見えたらおかしいだろ。
謎の物体が気になった俺は、雨に濡れる覚悟で店の外へと出た。当然外は暴風雨なので、一瞬にして全身びしょ濡れになった。目に掛かった雨水を拭きながら、その謎の物体を見ているとーー
あれ……こっちに落ちてきていないか?
そんな疑問が頭に浮かんだ。
落下速度としてはとても緩やかだが、どう見ても店に直撃する落下角度だった。
ここまで順調に母親が喫茶店を営業してきたのに、謎の物体のせいで壊されるのは困る。
だけど隕石だという確証もないから、下手な行動は起こせない。俺はどうすれば……。
「真白ちゃん、どうしたの?」
いつまで経っても戻って来ないのを心配したのか、母親が扉を少しだけ開けて聞いてきた。
「母さん、大変なんだ。空に謎の光があって、それがここに落ちてきそうなんだ」
とりあえず母さんに報告することにした。
ここは大人に任せるのが一番だと判断した。
「謎の光?」
不思議そうな顔をしながら、母さんは外へ出た。
外へ出た母さんは、雨が掛からないように目元付近に手を添えて、謎の光の方へと視線を向けた。
「……ほんとね。確かにここに落ちてきそうね」
「母さん……。ここに謎の光が落ちてきそうなのに、どうしてそんなにマイペースなんだよ……」
「それは対策をしても意味がないのなら、アレの正体を見たほうがいいでしょ?」
「それはそうなんだけど……」
もしも謎の光の正体が隕石だったら、この場にいる俺と母さんは死ぬ可能性がある。だけど謎の光の正体が隕石ではなかった場合、何が起こるか分からない。まさに未知の領域だ。
そんな話をしている間に謎の光は確実にこちらに近付き、ほぼヘリコプターが飛ぶ高度にいた。
「そんなこと言っていたら、もうすぐそこまで来ているんだけど。ど、どうする!?」
「落ち着きなさい、真白ちゃん。一度深呼吸をして、呼吸を整えましょう」
「……っえ。 分かった」
言われるがまま、母さんと一緒に深呼吸をした。
再び謎の光の方へと視線を戻すとーー高い木のてっぺん近くまで迫っていた。
母さんは慌てる様子もないし、ここは母さんを信じて俺も静観しよう。
そう思い謎の光を見つめていると、謎の光の中から女の子の声が聞こえてきた。
「レギーネクッション!!」
すると目の前にオレンジ色の大きなクッションが現れた。クッションを見た感じ、弾力があって気持ちよさそうだった。
……って、色々気になることが起きすぎ。
謎の光とクッション。そして光の中から聞こえてきた女の子の声。これらの謎がもうすぐ分かる。
謎の光はクッションの上に静かに落下した。周囲への影響は……クッションと雨のおかげで被害はゼロだった。もしもクッションがなかったら、目の前の道路に大きなクレーターが出来ていたかもしれない。ほんと謎のクッションありがとう。
「うぅ……痛っーい!!」
クッションを拝んでいると、その上から先程聞こえてきた女の子の声が聞こえてきた。
「可愛い女の子の声が聞こえるわね」
「そうだね。とりあえずクッションの上にいる女の子に声を掛けてみる?」
「そうね。もしかしたら何か事情があるかもしれないから声を掛けた方がいいわね。それじゃあ、真白ちゃん頼んだわよ!」
いい大人がサムズアップをしながら舌ペロをするんじゃないよ。女子高生気取りかよ。
「はいはい。分かったよ」
とりあえずクッションの上にいる女の子に、どうやって声を掛けるかだな。
どう足掻いても雨の音でかき消されそうだけど、ダメ元で大声で呼んでみるか。
口元を手で覆い、お腹に力を入れて、精一杯の声量で女の子に向けて声を掛けた。
「あのー!!大丈夫ですかー?」
これクッションの上まで届いているのかな。
ちゃんと雨の音にかき消されず、女の子に聞こえているかな。……不安だ。
そんなことを思っていると、クッションの上から人影らしきものが見えた。そしてーー
「ご心配ありがとうございます。私は大丈夫です」
女の子の声が聞こえてきた。
「申し訳ないのですけど、このクッションを消してもらえるとありがたいのですけど」
いつまでも目の前にクッションがあると、他の人の目に触れて、騒ぎが大きくなる可能性がある。
その前にクッションは消してもらい、さらに女の子の顔も見ようと考えた。
「わかりましたー!」
女の子から返事が聞こえた瞬間ーー目の前にあったクッションが一瞬にして消えた。
同時にクッションの上にいた女の子がーー
「ーーぐへっ」
顔面から地面に落ちた。
とても痛そうな音が聞こえた。
「えっと……大丈夫ですか?」
声を掛けると女の子はゆっくりと顔を上げ、服をはたきながら起き上がった。
「……」
女の子は髪の色と同じオレンジ色の制服らしきものを着ていて、不思議な雰囲気を纏っていた。
「私は大丈夫です。ご心配ありがとうございます」
ここであることに気付いた。
顔面から地面に落ちたら顔に傷が出来るはずなのに、女の子の顔には傷らしきものはなかった。
「あらあら。とても可愛い女の子ね。とりあえず雨でびしょ濡れだから、中に入りませんか?」
「母さん!? こんなよく分からない不審者を、簡単に喫茶店にあげていいの?!」
「こら。こんなに可愛い女の子が不審者なわけないでしょ。もしかしたら女神様かもしれないよ」
「それは漫画の見過ぎだから」
俺も母さんと同じで漫画やアニメが好きだけど、現実世界に女神様がいるわけがない。
だけどこの状態の母さんに何を言ってもダメだから、ここは渋々受け入れるしかない。
「……分かった。俺も体を拭きたいし、一度中に入って話をしよう。君もそれでいいかな?」
「大丈夫ですよ」
「それじゃあ……ようこそ私の喫茶店へ。タオルを持ってくるから、中でゆっくりしててね」
「ありがとうございます」
女の子はお辞儀をしてから、喫茶店の中へと入っていった。そのあとに続き、俺も中へと入った。
ドジっ子魔法少女を保護しました 夕霧蒼 @TTasuki
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