宮部桜は恋の謎を探求する
りりん
第1話 ラブレター
突然だが、あなたはラブレターを受け取ったことはあるだろうか?
想い人に好意を伝えるための手段の一つであるラブレター。昔は多く見られたが、情報機器が発達した現在ではラブレターの代わりにSNSで告白することも多い。そのため、現在では希少な手段だ。このような状況で、わざわざ手描きで手紙をしたため想いを伝える。この行為の重みが一層増したとも言える。
そんな価値がラブレターにはあるのだ。
俺は本日、記念すべき365通目を下駄箱から取り出した。
365人からもらったわけじゃないし、別にいちいち数えたわけじゃない。おおよその数である。
重要なのは正しい数ではなく、これくらいはもらったという俺の認識だ。
なにより気味が悪いのが、これら全てのラブレターが同じ相手からということだ。
ラブレターを欲しいと思ったことはある。あるけど、これはないだろう! 誰が無限によこせと言ったよ!
内容もひとことスキだけ。名前も書かれてない。封もない。簡素なメモ用紙にボールペンで書き殴ったような字で。子どもの落書きかなんか?
果たしてこれはラブレターと言えるのだろうか?
ただ俺への一途な執念だけで、嫌がらせの習慣の一環として1年送り続けた嫌がらせではないのか?
毎日、毎日、同じ紙に同じ内容だ。
ハッキリ言ってホラーだ。
俺の人生初体験を三流ホラーに貶められてしまった。
俺の人生を改めて思い返せば、恋愛事には縁遠い人生ではあった。
だから、最初はドキッとした。正直に言えば嬉しかった。
中身がなくても名前が書いてなくも。
ただそれが1週間、2週間と続き、1か月経つ頃にはそんな気持ちは消え失せた。
俺は今日も今日とて、メモ用紙を手で丸めてポケットに突っ込んだ。
この動作までも朝の日常になってしまった。今ではこの動作に1秒とかからない。
もし、ゴミを丸めて捨てる選手権なんてあったら、世界一になれる自信がある。
そんなバカな妄想に浸りながら、俺は下駄箱を後にしようとした。
するとその時、突然後ろから聞き慣れた声がした。
「おはよう、直樹。今日も入ってたんだね。そのゴミ」
「おはよう、悠貴。ゴミといえばゴミだが、第三者から言われるとなんか傷つく」
声をかけてきたのは幼なじみの山中悠貴。幼稚園からの付き合いだ。茶髪のショートヘアに、切れ長の目が特徴。
しかしなんと言っても、最大の特徴は男子制服を常に着用していることだ。彼女は紺のブレザーに灰色のスラックス、赤色のネクタイは首元までキッチリ締めている。
この学校では、男女問わず好きな制服を着れる。そのため、女子でも男子の制服を着ている者も少なくない。逆はあまりいない。
ただコイツの場合は、女子にしては背丈があり、中性的な顔立ちをしている。結果として性別を間違えるものが後を絶たない。名前もややこしいしな。幼なじみじゃなかったら間違いなく俺も混乱していた。
「でも、すごいよね。そのゴミの人。毎日飽きもせず、直樹に嫌がらせするとは。感心、感心」
「お前の中では本当にこれゴミ扱いなんだな。しかも、嫌がらせなの確定かよ?」
「だって、私がもらったラブレターにそんなもの一通もなかったよ。みんな丁寧な字で好きな理由と名前書いてたよ。しかも、いい紙使ってさ。まぁ、全部念入りに処分したけどね」
さらっと、天使のように微笑みながら悪魔そのものな発言したぞ。
「もう、お前のモテ自慢はいいって。どれだけモテてても、本命にはからっきしだしな。ただ虚しさだけが塵のように積み上がるだけって、イッタ!」
悠貴は念入りに俺の足に全体重載せてグリグリ攻撃してきた。女子の割には体格いいから、体重重くてなおさら痛い。
「そうだよね。いくらモテても意味ないよね。それはそうだね、直樹もたまにはいいこと言うね」
悠貴はただでさえ鋭い目を尖らせた。その様は獲物を獲ろうとしている鷹の目そのもの。
「絶対そんなこと思ってないだろ。悪かったからやめてください。重い、重い。痛い」
「はあ!」
普段の悠貴からは、到底発せられることのないドスの効いた声がした。
俺の「重い」発言が気に障ったからか、さらに体重かけてきやがった。
このままでは俺の足が死ぬ。
「ごめんなさい。悠貴様は天使のように軽いです」
心の奥底から思ってもいないようなことを吐き出した。
俺の気持ちや社会的事実より命の方が大事!
「……まだ、気に触るけどこれで許すか。いつまでも、バカみたいなことしても仕方ないしね」
悠貴はそう言うと、やっと俺から距離を取った。
「それに今日は私たちにとっても一応大事な日だし。そろそろ教室で準備でもする?」
「ああ、別に準備もないが。原稿の最終チェックでもするか」
今日は俺たちの晴れ舞台の日でもある。新生徒会の就任式があるからだ。
本日からは俺こと上村直樹が生徒会長になる。ついでに悠貴も副会長だ。
ここ私立玲瓏学園の生徒は生徒会というか学園そのものに関心がない。
その心の表れとして、各役員の立候補がそれぞれ一名しかいなかった。
この学園って本来はそこそこ進学校のはずなんだが?
生徒たちよ、普通はこういうところでアピールしないといけないだろうが!
内申点目的のために生徒会に入った俺は尚更そう思う。
ちなみに悠貴はなんとなくらしい。絶対、嘘である。ホントは好きな先輩が生徒会にいるからだ。
このような事情があり、立候補選挙はなし。
本日、そのまま生徒会役員就任式をすることになった。
俺たちは下駄箱での小競り合いを終えて、教室の方に静かに歩き出した。
その時の俺は、誰かがを俺をつけているとは露も知らなかった。
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