私は好きな子と異世界に来ました。

赤ゆめ

第1話 私の好きな人

 私、鈴音すずね あかり には好きな人がいる。


 使われていない教室にまで呼び出して「お友達になってください」なんて言った私は、きっと変な人に見えただろう。

 あの時は鼓動の音がやけに大きくて、何を言われたのか聞き取れなかったけど、そのあと二人で一緒に帰ったことは覚えてる。


 帰り道、何話したんだっけ──…




 朝のホームルームが始まる七分前の教室。

 自分の机に荷物を置くと、鈴音はある席に視線を留めた。

 黒く艶やかな長髪に凛とした姿勢で本を読む後ろ姿。それを見つめ、鈴音は胸の鼓動を抑えるように一度深く息を整える。


 よ、よし!大丈夫、頑張れ私!!


 そう心の中で鼓舞すると、その席へ近づき声をかけた。


月乃つきのさん、おはよーっ!」


「………おはよう鈴音すずねさん」


 かっ!可愛いーーッ!!

 おはようって!月乃さんが私におはようって!やばい!!やばばばば──


「……なにニヤニヤしてるの」


「えっ?!わたしニヤニヤしてる?!」


「してる。と言うか声に漏れてたし、へへへって」


 なにそれ私めっちゃきもいじゃん!!


「い、いやぁー…私、本当に月乃さんと友達になれたんだなって嬉しくって、ははは…」


 すると月乃は目を細め、鈴音を真っ直ぐ見た。


「…あの、鈴音さん。それは昨日お断りしたはずだけど」


 ……うん…?えっ?


「え、えーっと…何を?」


「友達のお誘いよ」


 月乃は、そう言い放つと再び読んでいた本に視線を移す。

 鈴音は何を言われたのか分からず、ポカーンとしていた。


「は、ははは…月乃さん意外に冗談言うんだ!演技上手で一瞬信じちゃったよ!心臓止まりかけて──」


「冗談じゃなくて本気よ、本気と書いて大マジ。昨日、再三さいさん言ったはずだけど記憶喪失なのかしら」


 鈴音はフリーズした。


 …えーっと。月乃さん、何言ってるんだろう…と言うかこんな話し方だったんだ月乃さん。でも、ミステリアスな所と口調がマッチしてて逆に合ってるかも!可愛いから何しても映えるなぁ。やっぱり月乃さんって─── ※鈴音は情報を処理できていません。


 鈴音の頭の中で、一通りの妄想が終わった後、月乃の無表情に目が行く。

 冗談を言うにしては鈴音の反応を一切気にも留めず本を読む姿に「本気で言っているのでは」と最悪のシチュエーションが、ようやく鈴音の頭をよぎった。


「え、どう言うこと??本気って…?じゃ、じゃあなんで昨日一緒に帰ったの?!冗談なら冗談って…」


「ちょ、ちょっとなんなの急に…声大きいわよ……昨日は、あなたが魂抜けたみたいに固まっちゃったからでしょ。私は目立ちたく無いのよ、だから急に大声出したりするのやめて…」


 その瞬間、ガラガラと教室のドアが開かれた。


「おーい、席座れー。ホームルーム始めるぞー」


 その先生の声を最後に、そこから先の記憶がない。

 気がつけば、まるで時間が飛んだかのように、四限終了のチャイムが教室に鳴り響いていた──。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私は好きな子と異世界に来ました。 赤ゆめ @soranaki7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ