ショートショート集 No.2 神様

おもちちゃん

神様

 A氏は科学番組「9時からサイエンス」に招待された。その番組は心霊現象や超常現象の正体を暴く内容の番組だ。その番組は非常に人気がある反面、A氏の様な超能力者にとっては困りものだった。

「9時からサイエンス」では超自然的な出来事を学者が分析してインチキであると放送するのだった。番組の人気はうなぎ上りで、視聴者の中にはわざと超能力者を呼び出してそれを見破ろうとする輩「超能力者狩り」まで出てきたのだった。

そうした現状は元々肩身の狭かった本物の超能力者たちにとって由々しき事態だった。偽物の超能力者たちは超能力者狩りによって一掃されたが、その手が本物の超能力者にまで及ぶ事となったのだ。

そこで本物の超能力者の重鎮であるA氏はこの状況を憂い、再び自分達への畏怖の念を皆に思い出させるために「9時からサイエンス」に出る事に決めたのだった。


「今スタジオにおられる方々に神様を見せましょう」

A氏はスタジオに登場するや否や言った。

スタジオには一瞬笑いが起こったがA氏があまりに堂々としているのでスタジオの司会者までもが黙り込んでしまった。A氏はスタジオの真ん中に行くと座り込み、お経を唱え始めた。

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏…」

A氏のお経の唱え様は迫真で額に大玉の汗をかき、鼻血を流していた。

が、お経を唱え終えると顔からはさっきの険しさは嘘のように消え去った。

「貴方は神様ですか?」

番組の司会者はA氏に質問した。

「はい、私が神様です。」

その答えにスタジオはどよめいたが、スタジオ後方に座っていた3人の学者たちは笑った。A氏は立ち上がり、3人の学者たちを見据えた。

「では今から、雷をここに落として見せましょう。」

A氏がそう言うと、爆音とともにスタジオは真っ暗に停電した。雷がスタジオのあるビルに落ちたのだ。

「インチキだ!」

そういったのは左端に座る気象学者だった。暗闇の中、スタジオは神様が来たんだと騒然としていたが、その一言で静まりかえった。

「確かに雷は落ちたが、みんな忘れていないか? ここは一番背の高いビルのスタジオだ。そりゃ雷は落ちるさ。」


スタジオに電気が戻ると、さっきの騒ぎは収まり、司会者はA氏にもっと証拠を見せる事を要求した。

「分かりました、では空からあめ玉を降らせて見せましょう。」

A氏は言った。

すると、突然スタジオの窓をコツコツと叩く音がし始めた。

司会者が焦って窓の外を眺めると空からあめ玉が降ってきたのだ。今度も客席にいた客が神様だと騒ぎ始めた。

「インチキだ。」

声を荒げたのは真ん中に座る歴史学者だった。

「皆は知らないと思うが、似た事例はこの世にある。カエルだって空から降ってくるのだ。」

その一言で客席は平静を取り戻し、司会者もそれに倣って落ち着いてA氏にさらに証拠を求めた。


「分かった。これが最後です。」

A氏は右端に座っている科学者を指さした。科学学者はA氏が起こした現象の数々を目の当たりにしても腕を組んで一切怯んでいるような様子はなかった。

「このスタジオに嵐を呼び込んで見せましょう。」

A氏は両手を振り上げると、彼を中心に風が渦を巻いて小さな台風となった。小さな台風からは稲妻が走り、スタジオを駆け巡った。客席とスタジオからは人が逃げ出してA氏と3人の学者だけになった。科学者は台風の中にいても依然と落ち着き払っていた。

「こんなものはインチキだ。」

稲妻の轟音が響く中、科学者はあらん限りの大声を張り上げた。

「台風を作り出す事は莫大なエネルギーがいるが、科学的に可能だ。」

A氏はそれを聞くと振り上げていた両手を下ろした。台風はそれと同時に散った。

「私ができるのはこれまでです。」

A氏はそう言うとスタジオを後にした。スタジオにはびしょ濡れとなった3人の学者が残された。


学者たちはタオルで頭を拭きながら舞台裏に戻ると、ため息をつきながら話始めた。

「しかし、どうやって雷が落ちるタイミングがわかったのだろう。」

「いやそれよりも、どうやってあめ玉が降るタイミングがわかったんだ?」

「いやいや、台風を自在に作ったり消したりするなんて。」

彼らは互いの思いを話し合い、そして一つの結論に達した。

「いづれにしてもA氏が学者になれば、最高の学者になっただろう。」

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