静かで狂った世界で。

牡丹 いつか

第1話『プロローグ』

 僕以外、誰もいなくなってしまった。

 さっきまで賑やかだった教室は今は静まり返っていて、まるで「最初からこうだった」と錯覚する程だった。

 不思議と寂しいだとか、悲しいだとか。そんな気持ちは微塵も出てこなくて。「ああ、やっとか。」そんな達成感に近い気持ちが溢れてきた。


「これでよかったんだ。」


 そう自分に言い聞かせ、静かな教室を後に帰宅した。廊下も静まり返っていて、もう誰もいなくて。いつもなら歩けない真ん中を堂々と歩いてみた。

 とても誇らしかった。興奮した。

 スキップしたり、走ってみたり。笑いながら歩いて、走って、歩いて。歌ってみたりして。軽い足取りで靴箱に到着して。

 外を見ると雨が降っていた。いつもなら億劫に感じて嫌になるのだけれど、不思議と今日は楽しく感じて。

 靴を脱いで、靴下も脱いで。傘もささず、校庭を走り回った。

 興奮して熱した身体に冷たい雨が降り注ぐ。とても、とても心地が良かった。

 外はやっぱり静かで、何も聞こえなくて。雨の音と、僕の水溜まりを飛び跳ねて、笑う声だけが響いて。

 まさに異様だった。

 狂っていた。

 でも人の目なんて気にしない。気にする必要も無い。だってこの世界には、もう僕だけ・・・なのだから。誰も僕を見ない。誰も僕をバケモノなんて言って避けない。


「あははははは!!!!」


 声を荒らげて笑った。笑いすぎて、地面にのたうち回った。服が泥だらけになっても、気にしない。

 これでいい、これでいいんだ。

 だから目が熱いのは、気のせいだ。何かが伝うのも、きっと雨だ。問題ない。

 大丈夫、大丈夫。

 僕は一人が良かったんだ。あいつらが嫌いだったんだ。だから、だから。

 僕は発狂しそうな声を押し殺して、地面にうずくまった。


 

 

 

 

 

 

 

 これはとても悲しく、寂しい。

        一人のバケモノの話——

        

        

        

        

        

        

        

        

        

        

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静かで狂った世界で。 牡丹 いつか @botan_itsuka__

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