芽殖孤虫のような悔恨

麝香連理

罪悪の鐘は鳴り止まず

「あ、今日も来てくれたの?嬉しいな。」

「も、もちろんです!リントくんは私の推しですから!」

「それは嬉しいけど無理しないでね?みっちゃんかなり頻度高いから。」

「良いんです!私はリントくんの夢を応援してるんです!俳優になりたいって夢!」

「あはは……ホストでなんとか食っていける程度の顔でなれると良いんだけど……………」

「よ、弱きはだめですよ!リントくん私に前を向けって言ったのに自分は後ろ向きなんですか?そ、それは矛盾じゃないでしょうか!?」

「っ、ごめん。応援してくれてるファンに言うことじゃなかったね。」


 彼ははにかみながら頭を掻いた






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「リントくん、何か良いことあった?」

「ふふ、実はね…………次の新ドラマのオーディションで脇役が決まったんだ!エキストラじゃなくて脇役だよ!」

「わ!すごいです!おめでとうございます!絶対見ますね!」

「うん、ありがとう!」


 彼は満面の笑みを浮かべた





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「みっちゃんのお陰で俳優になれた。ありがとう………………!」

 深々と頭を下げる下げる彼の後ろには、主演として映る彼のポスターが飾られていた。

「きゅ、急にアフターに誘われたと思ったらそれですか……………しかも家に連れ込んどいて……………」

「ごめん!怖い思いさせちゃったかな!?」

「い、いえ、そういうわけじゃ……………それで呼んだのはどうしてですか?態々それを言う為ではないでしょう?」

「うん…………そうだね、えっと…………………」

「どうしたんですか?」

「…………付き合って下さい!」

「…………………………………………………え?」

「今まで頑張ってこれたのは一番熱心に応援してくれたみっちゃんのお陰なんだ!あぁ、いやえっと、こんなこと言いたい訳じゃ…だからその………好きです!」

「あ、あえ………ええぇぇぇぇぇぇ!?」

「ホストを辞めても俳優1本でいけるようになったんだ。だから伝えるよ、君に相応しくなれると思って。」


 彼は顔を赤くしながらとても嬉しそうに笑った。






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『激写!大物女優芹川アンノと話題の売れっ子俳優の八巻凛斗の熱愛発覚!?手を繋いで歩く二人の写真が──────』

「え……………………?」

 テレビで報道されたとある週刊誌の見出し。それを私は呆然と眺めることしか出来なかった。







「電話…………リントくんから……………!」

『みっちゃん!今大丈夫!?』

「え?………うん。」

『その、えっと………見た?』

「………………うん。」

『あれは嘘だから!僕達も良く分かってなくて!だから………』

「リントくん。」

『な、なに?』

「………ごめんなさい、信用……出来ません……」

 私は震える声でそう、押し殺すように言葉を紡いだ。

『……………そ、うだよね……………う、ん………うん、分かった………………』






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『続いてのニュースです。俳優の八巻凛斗さんが、飛び降り自殺をしたとのことです。』

「え?」

『そのビルは先日八巻さんの熱愛を報じた夕楽社のビル近くであり、警察は関連性について調査をしています。』

「……………………」

 その日から、私には言い様のない不安が付きまとうようになった。









『警察の調べにより、芹川さんと八巻さんとの間に関係はなく、芹川さんと一般男性の不倫を撮影した記者が話題作りのために捏造したと供述したとのことです。』

「……………あ、あぁ………!」

 私の目からは涙がこぼれ落ち、テレビの音が聞こえなくなっていく。けど一つ、ハッキリと聞こえた言葉があった。

『これにより捏造した記者は書類送検されました。』


 リントくんを殺したのに?リントくんを追い詰めたのに?

 私がそう思う度、別の私が後ろから囁く。

 "信じなかったお前が悪い"………と。





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「………あぁ、またこの夢…………………」

 リントくんがいなくなってもう半年。

 あの日から安眠できた試しがない。

 それでも世界は回り、社会は動いて時は流れる。

 重たい体を起こし、栄養補助ゼリーと軽いメイクをして家を出る。それでも隠せない目の隈を縁の厚い眼鏡で覆い、前髪も目にかかるようにする。

 こうしないと、あの時の行動を非難されているような、そんな強迫観念を感じる気がする。

 元々陰鬱な女って言われてたから、昔に戻っただけ。そう、これが本来の私……………………





 私の身の回りの変化はもう一つある。不思議なものが見えるようになった。老若男女問わず、黒いもやのようなものだ。

 私にしか見えてないし、人によってもやの濃さや量は違う。ある時、これは負の感情なのではないかと思うようになった。

 何故なら、立ち直ろうと洗面台に向かったあの日、鏡に映った自分の身体が見えなくなる程のどす黒いもやが、私の身体に纏わりついていたからだ。


 ボーッとしながら会社に向けて歩いていると、何やら頭を抱えている会社員の男性がいた。


「ど、どうすれば…………!」


 あ……あの人……そこそこ濃いな……………


「おいで。」


 私が人差し指で誘い、目の前にいた男性のもやを残さず私のもやに加えた。


「あれ?……………はっ、落ち込んでる場合じゃない!…………そうだ!あれなら!」


 男性は解決策を思い付いた様子で、無我夢中で走っていった。


「フフ………」


 もちろん、回収できないもやもある。解決策がない人や、もう諦めてしまった人。そういう人達のもやはまるで瞬間接着剤のように張り付いていて、私には何も出来ない。

 

 これが私の罪滅ぼし。私は私のために、他人の感情を奪う強欲な女。


 嗚呼………私って最低な女…………………

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