第2話 近未来
「こうして、AIの自己進化により、プロンプトを読み上げることで物質化が可能となり、人類の生産性は均一化された。」
「生産された物質は消えず、無から有を作り出すような技術は魔法のようだとも言われたね。」
壮年の教師が教鞭を執り、生徒へと授業を行っている。
「では、人々の格差は解消されたのでしょうか?」
熱心な生徒が教師へ質問を投げかけた。
「いいや、格差は解消されなかった。」
壮年の教師が伏目がちに答え、こう続けた。
「当時は、もう働かなくてもいいと皆が騒いだものだった。だが、現実はこのとおりだ。労働はなくならなかった。なぜだと思う?」
教室は静寂に包まれ、教師の言葉が響くのみだった。
「物質化には限界があったんだ。しかも、個人差があった。私も当時は子どもだったが、18歳の卒業の時に、君たちと同じように、このAIを用いた物質化に関する授業を聞いた。」
待ちきれない別の生徒が口を挟む。
「なぜもっと早くに授業しないのですか?AI物質化は生活で必須にも関わらず、この義務教育修了過程の最終日に設定されています。この後、職業訓練を行うカリキュラムですが非効率では?」
少し悲しそうな目をして教師は答える。
「限界があると言ったね。それに格差は埋まらなかったともいった。…この物質化には、個人の才能が大きく関わっている。」
教室は水を打ったように静まり返った。
誰もが自分の才能に自信がある。希望があるという眼差しだ。
心を痛めながら壮年の教師は続けた。
「脳だ。脳の大きさがまず大きな比重を占める。脳は先天的な遺伝子、つまり君たちの親御さんたちの限界量を概ねそのまま引き継ぐことになるだろう。」
「次に情報処理能力。こちらはいわゆる効率的な物質化に係るものだ。限界値に達するまでにどれだけ効率よく運用できるかの部分だな。」
「なぜ義務教育の修了過程にこの授業があるか、察しのいい者ならわかるだろう。」
「思春期の難しい時期にこの事を知ればどうなるか。親御さんに恨みを持つものもいるだろう。それに能力の格差はそのまま貧富の格差にも繋がる。いじめの温床になるからだ。それに才あるものは我々教師陣でも止められるか分からない。」
生徒の表情が暗くなる。何者でもなかった、希望に満ちた自分が、才能という限界値を知り、歯車でしかないことを自覚していく。
教師は続けた。
「この座学以降、物質化の授業について自分の身に起こることはすべて自己責任だ。覚えておいてほしい。」
教師は暗く落ち込んだ空気を払拭しようと気を引きそうな話題について話し始める。
「人気の職業について話をしよう。物質化によって生活基盤が整い、豊かになった人類は新しい娯楽を求めた。」
「剣闘士は今や子どもが憧れる職業になり、低ランクの試合ですら大金が動く。リスクを承知で一発逆転のために剣闘士になる人も多いくらいだ。」
「…私はこの先の職業訓練で、君たちの夢が叶うことを祈っているよ。」
壮年の教師はこう締めくくった。
「…次は実技だ。あとは実技担当の先生に任せるから、少し待っていなさい。」
静寂があった。皆何を口にしていいかわからないようだった。
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