第13話 マスターから急な仕事の電話、鈴木さんも、聴きたいようだ

美少女鈴木裕美は、「一緒にいたい」、「同じ講義です」と、俺の隣を(ピッタリ寄り添って)歩いている。

慣れていない俺には、実に負担だ。

(マジに緊張する)(何を話していいのやら、全くわからない)

(本音は、一人で、気楽に歩きたい)


だから、そっと、声をかけた。

「あの、鈴木さん」(その無邪気な目が痛い)

「はい、何か?」(声も可愛い、天使みたいだ)


「人目も多いから」(そのまま、少し、距離を取った)


予想外だった。

「逃げないでください」(強めの言葉だ)

「私が嫌なの?」(目の力も強い)


「いえ・・・鈴木さんは、すごく可愛くて」(鈴木裕美の、頬が赤くなった)

「俺と歩いて、いいのかな」(こんな地味キャラだ、美少女の君には似合わん)


鈴木裕美が、プッと笑った。

「腕組みますか?」(おい!何だ!その自信は?)

「そうすれば、逃げられません」(俺は、また固まった)


そんな問答をしていた時だった。

スマホが鳴った。

下北沢のマスターからだった。


「健ちゃん、今夜、お願い」(必死な声だ)

「え?何かあったの?」(今夜は、渋い大人のジャズコンボのはず)

「ピアノの山本さんが、風邪だとさ、それでメンバーが健太君に頼みたいって」

(達人ぞろいだ・・・気合を入れないと、太刀打ちできない)

「はあ・・・曲は?」(事前にイメージをつくりたかった)

「健ちゃんと相談して、その場でもいいとさ」

(まるで、演奏テストか?でも、面白そうだ)

「わかりました、対応します」

(ギャラも入るし、一食分助かる)


マスターとの通話を終えた。

鈴木裕美が、離れずに立っている。


「あ、ごめんなさい」

「急なバイトの話でした」

(下北沢のジャズバーとは言わない、こんな美少女とは世界が違う)


鈴木裕美が、顏をじっと見て来た。

(俺の顔は、鑑賞には値しないと思う)

(恥ずかしいので、目を伏せた)

「曲って・・・おっしゃられて・・・」

(聞いていたの?恥ずかしい)


「はい、まあ、とある場所です」

「気にしないで」

(説明する理由もない、クリスマスまでの関係だ)


「ピアノ弾かれるんですか?」

(マスターの声が大きかった、結局、聞かれたらしい)

「うん、どうなるかな」

(確かに、セッション相手は、達人揃い)


「え?」

(鈴木裕美が、いきなり俺の手を握った)

(俺は、全身が硬直した)


「私も聴きたいです!」(そのキラキラ瞳は・・・見返せない)


断れなかった。(また、押された)

「少し遅くなるかもしれません」

「危ないので、夜は送って行きます」

(俺なりに誠意をこめたつもりだ)


でも、鈴木裕美の目が何故、潤む?

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