第7話 短期間の「代役」程度で、「連絡先を教えろ」だと?
俺には(全く)似合わない美少女、鈴木裕美の話が、具体的なスケジュールに移った。
「練習場所と練習日と時間なのですが」
俺は、メモするため、鞄から手帳を取り出した。
(中学入学時に親に買ってもらった、横浜元町のKバッグ店の濃紺のシステム手帳)
(かなり使い古しているが、頑丈で、壊れない)
(スマホにメモとか、洒落たことは、俺には無理)
(そもそも、スマホそのものが、苦手だ)
美少女鈴木裕美は、目を丸くして、うれしそうな顔だ。
「ほー・・・・趣味が似ているかも」
「私の手帳も同じ店です」
(彼女も、鞄から、手帳を取り出して見せる)
(俺より小型の同じKバッグ店の濃紺システム手帳だった)
ただ、俺は、あくまでも「一時的な代役ピアニスト」に過ぎない。
俺にはもったいない美少女に、余計な時間をつぶさせるわけにはいかない。
事務的な話だけに限定するべきと、考えた。
「すみませんが、先ほどの話の続きを」
鈴木裕美の目の力が、どういうわけか、強くなった。
「練習場所は、下北沢の楽器店のスタジオです」
「練習日は、毎週金曜日、午後5時半から7時まで」
「了解しました」
メモも完了したので、席を立とうと、腰を浮かした時だった。
鈴木裕美が、あの(心臓に良くない)すがるような顔になった。
「もう少し、お話、いいですか?」
「あ・・・はい」(まだ何があるの?実に不安だ)
鈴木裕美は、真面目な顔だ。
(何か悪いことをしたのかと、不安になった)
(代役キャンセルのほうが、ありがたいが)
鈴木裕美は、鞄からスマホを取り出した。
「田中さんに急に連絡をすることもあると思うので」
「私の連絡先ですか?」(実に愚問と思うが、確認した)
「はい、その通り」(鈴木裕美は、実に愛らしい笑顔だ)
俺も、スマホを鞄から出したけれど、どうにも「必要性」を感じない。
「一時的な代役に過ぎないのに」
「あと、三回か四回の練習と本番に、その場所にいればいいだけなのに」
いろいろ考えるが、鈴木裕美は俺のスマホに手を伸ばして来た。
(そのまま、有無を言わせず、操作している・・・マジか?)
「はい、ラインで、つなぎました」(その勝ち誇った顏は何?)
ビストロを出て、(要件も済んだので)、俺は「では、また練習日に」と別れようとした。
(こんな美少女にとって、必要以外に俺と歩くのは、可哀想だから)
鈴木裕美は、うれしそうな顔だ。
どういうわけか、俺から離れようとしない。(隣を歩いている)
「あの・・・まだ、何か?」
(少し強めに聞いた)
「はい、いろいろと」
(その声が、震えている、意味が不明だ)
「迷惑です?」
(美少女の声が沈んだ)
「いえ、慣れていないので」
(事実だ、それ以外に言うことなし)
鈴木裕美は、すごく近くに寄って歩く。
「よかった、嫌われたかと」
(その微妙な言い方は何?)
「三時までは、お話できますよね」
(拘束される?こんな美少女に?この俺が?)
(俺は、固まってしまった)
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