第4話 いいね300……500……1000……2000! 脳内ファンファーレ

 部屋に入ると、モフ太が私のクッションをズタズタにして遊んでいた。

 現行犯逮捕ぉおー!


「お前なぁ……! バレたらどうすんの!」


 叱ろうとしたけど、つぶらな瞳で見上げられて毒気が抜ける。まあいいや。お腹空いてるんだよね。


「ほら、さっきこっそり持ってきたサバの味噌煮。食え」


 ティッシュに乗せたサバを差し出す。モフ太はクンクンと鼻を鳴らし、プイッと顔を背けた。


「は? 贅沢かよ。結構イケるのに」


 じゃあ何食うんだよコイツ。途方に暮れながら、私は前髪に手をやった。最近、引きこもってばっかで、前髪伸びすぎ。うざい。(私は布団が恋人の、引きこもりJKだ。引きこもり万歳だ。ワッハハー!)




 ハサミを取り出し、適当にジョキっと切る。


 ハラリと落ちた私の黒髪。


「パクッ!」


 電光石火の早業だった。モフ太が空中で私の髪の毛をキャッチし、咀嚼そしゃく音を立てて飲み込んだのだ。


「……え、まじ?」「キュッ!(うま!)」


 目を輝かせて「おかわり」を要求してくる。


「お前……髪の毛食うの? 妖怪かよ」


 こいつUMAだったな……。


 でも待てよ?


 カットする → モフ太が食べる → 掃除しなくていい。……SDGsじゃん。


「いいやつだなモフ太! お前は今日から私のルンバだ!」



 ♢ ♢ ♢



 それからの一週間は、ずっとシザーが音を立てた。


 モフ太の生態は謎だらけだった。まず、切った毛が一日で元通りに生える。トカゲの尻尾かよ。おかげで毎日ネタに困らない。


 月曜日:リボンをつけて『量産型モフ太』。火曜日:ワックスでツンツンにして『パンク・モフ太』。水曜日:三つ編みで『文学少女風モフ太』。


 ママが階段を上がってくる足音が聞こえたら、即座に押し入れにシュート。(悪ィ、モフ太)



 そして、数字だ。いいね300……500……1000……2000! スマホの通知音が鳴るたびに、脳内でファンファーレが鳴る。


「やっば。私、天才かも。これもうインフルエンサー名乗っていいレベルっしょ」


 ニヤニヤしながらコメント欄をスクロールする。



 :癒やされる〜

 :かわいい!

 :謎UMAをカットする天才美容師JK爆誕!

 :情報量多い

 :誰かあのUMAを調べろよ

 :専門家はいねーの?



 称賛の嵐。気持ちいい。最高。




 私はルンルンでシザーを握る。


 目の前のモフ太。モフ太も尻尾をブンブンと振っている。また毛が伸びて、目が隠れそうだ。


「……切るか」


 私はハサミを握った。


 ジョキ。ジョキ。リズム良く刃を動かす。もっと鋭く。もっと速く。天才美容師っぷりを見せつけるように。風をかけるように。私は興奮しながらハサミを開閉させた。もっと、もっと深く――! 


 ガキンッ!!


 嫌な音が響いた。手の中で、何かが弾け飛んだ感触。


「……え?」


 恐る恐る手元を見る。そこには、根元からポッキリと折れたハサミの刃が転がっていた。


 嘘でしょ。これ、パパの形見のシザーなのに。錆びてたとはいえ、『Be Brave, and With Heart(勇気を持て。心をこめて)』の彫りが入った、世界で一つだけのハサミなのに。


 私の顔から、サーッと血の気が引いていくのが分かった。




 _______

 皆さまの応援が執筆の糧になっております。本当にありがとうございます。なけなしの筆力ですが、カクヨムコンに出ておりまして(汗)、お星さまの応援をいただけると泣いて喜びます。

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