籠の鳥は、闇を喰らう<聖女の国>

ささやん

第1話 いろいろな不満

「――と、いう事で。今回の依頼は、お二人でお願いします」


 中年の貴族であり、冒険者パーティ『籠の鳥』の交渉役、スレイマンは淡々とした声で、私とサテアに手付金の袋を渡した。


 その膨らみの違いで、嫌でも分かる。


「ちょっと、これ差があり過ぎない?」


「サテアほうが仕事が特殊ですし、内容もシビアだと思いますよ」


 彼の言い分は、もっとも、だけど少しは抵抗したかった。


「お前は、何もなければ観光だからな」


 サテアの言葉に肩をすくめて見せた。


「……でも、そうならないと思ってるんでしょ?」


「さあ、五分五分だな。ただ、お前がいると思うと私も心強い」


 心にもないサテアの言葉に腹が立つが、真顔で言われては、この話は終わり。


 これが、このパーティ内での格付け。

 それにアラサーの自称イケてるこのキルケさんをスカウトしたのは、このサテア。

 長身で知的イケメンのサテアの意見には、逆らえない。


「ご不満もありましょうが、『籠の鳥』の仕事という事をお忘れなく」


 スレイマンが、私に釘を刺した。


「わかってるわよ。事が起こればちゃんとやるから」


 ――そんなやり取りがあったのが一昨日。


 そして今日。

 私とサテアは、聖女の国――ユークリウス聖統領に入国した。


 そもそも入国した時点から別行動。

 依頼は“二人で受けた”のだけど、実質は単独任務(ソロプレイ)。

 私は、ここでは、”スレッタ”という、ユークリウス聖教の信者として巡礼に訪れた町娘に成りきる。


 明後日、次期聖女候補が数名が入国するらしい。

 そう、ここはユークリウス聖教の中枢にして、諸国の信仰属領を統べる神聖都市。


 正式な交代(神選の儀)は候補の出来次第で未定だとか言っているけれど、聖都アルセリアはすでに厳戒態勢。

 つまり、建前はどうあれ“交代はある”。



 聖女は象徴(おかざり)じゃない。

 神聖魔法の奥義による諸国の信仰属領への、継続加護。および、魔族に対する“最強戦力”。

 それと聖女を出した聖母国は、信者間は平等の理念はあるけど、自ずと発言力が強くなる。その点においても周辺諸国は、聖母の選出に関してはピリピリしてる。

 私もかつては、ユークリウス聖教の信者の貴族の娘だったので、事情は知らないではないわ。


 でも、……今の私にはどうでもいい。


『籠の鳥』

 そう呼ばれて仕事をしている以上、政治も宗教も少し距離を置いている。

 受けた依頼を、淡々とこなすだけ。


 サテアは聖統大審院で聖女候補の護衛任務。

 私は国内の警備担当。

 役割分担としては妥当だけど――


 問題は、私が町娘役なので“武器の持ち込み禁止”をサテアに言い渡されたこと。

 平民は、武器の所持が禁止されているとの事。

 それを知って私が渋面を作った時、サテアは、こう言ったのだ。

「もしもの時は、体術か、敵から武器を奪えばいい。簡単な話だな」

 私は、そうねと、少し引きつった笑顔で返すしかなかった。


 しかし、剣も短剣も投擲も持ち込む不可。

 か弱い私に丸腰で警備をしろって、どういうつもりなのかしら。


 入国して、その事情は何となくわかった。

 各国からは“正式な”少数精鋭が入国している。

 肩書きも任務もきちんとしたガタイのいいやつら。

 腰には、太くて硬い剣をぶら下げている。

(私の趣味じゃない)

 一方、私たちは聖統大審院の偉いさんからのほとんど個人依頼。

 その理由は知らない。

 とにかく、あまり目立つな――それが今回の建前であり本音。


 だから、腰に何もぶら下げちゃダメ。

 つまり功を立てても、どこかの部隊に持っていかれるらしい。

 私たちは、その影でこそこそ動く係。

 ま、慣れているけど。


 それにしても、さすが聖女の国。

 歩いているだけで、魔力がじわじわ削られていく。

 戦闘になって、いきなり魔力切れは勘弁だわ。

 嫌な国だわ。


 逆に神聖系は加護を受けるみたい。

 治癒魔法とか、自己犠牲で魔法を構築すれば使えそう。

 私だって神聖魔法は少しは齧ったことがある。

 工夫すれば戦力にはなる……はず。

 たぶん。


 あてがわれた町の宿に入って、部屋の窓を開けた。


 この国には妙な決まりが多い。


 飲酒は陽が出ている間だけ。


 護衛に入った他国の男たちは全員、首飾りをつけさせられる。


 他国の男性不信は、徹底しているようね。

 聖女の周辺に近づくと音が鳴る仕組みらしい。


 だから聖女の身辺護衛は女性騎士だけ。


 ならば、私もそっちが良かったなぁ。


 サテアも確か男なんだけど――彼は例外らしい。

 理由は聞いてないけど。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る