蟲霊卿

@syakuyou

エピローグ

お茶はお口にあいましたか?

そう、でしたら良かったです。

あの話のことでいらしたんですよね。

えぇ、分かります。

あなたのような人達は昔に大勢来ましたから。

私がこの話を語る時、あなた方は、ボケた老婆の荒唐無稽なほら話だと思うかもしれません。

ですが、あのお方は確かにいました。

こんなに年老いて様々なことを忘れても、このことだけは覚えています。

私の若々しく残っている唯一の記憶。



あぁ、わかりました。

少し感傷的になってしまいましたね。

話しますよ、



以下、話者ソフィアさんの話を一部抜粋、編集したものである



目の前をひらめくほのかに赤みを帯びた雪。

この辺りの地域は魔素量が多く、その魔素が雪に付着することによって、雪が桜のように色づくのだそう。

今宵のルナは満潮だ

ルナの魔素が地上に降り注ぎ、どんな恐ろしい魔蟲もこの日は静かに眠りにつく。

ランランと蟲避けの鈴の音が聞こえ、

ザクザクと雪を踏みしめる音が近づいてくる。

それではこの物語の主人公を紹介しよう。

その男は大きな蟲の外骨格のヘルメットを被り

その男は無骨で重く、頑丈そうな鎧を身にまとい

その男は御伽噺に出てくる死者のマントを身にまとい、身の丈に迫るほどの体験を背負っている。

ある者は男を、狂い火と恐れ

ある者は男を、亡者と怯え

ある者は男を、勇者と称える

この男は留まることなく旅を続け

この男は地獄をさまよい歩き

この男は贖罪を続ける

男は自分の名前を覚えていない

だが、人々は彼をこう呼ぶ

「蟲霊卿」







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