推しの声のNPCと世界最弱の社畜おっさんでダンジョン配信!無口を貫いていた人気Sランク配信者を助けたら、実はCV本人だったようで

玖暮かろえ

第1話 推しのNPCと時間外労働

「この回復薬をお使いください、ね?」


 体力がミリの俺を気遣ってか、アイラスたんは俺にポーションを渡してきた。


≪やばw≫

≪あいつ、NPCから回復薬貰いすぎ≫

≪さぁ、使う……のか?!≫


 生配信していることもあり、俺達の中むつまじい様子を観てくれている視聴者から嫉妬混じりの激励コメントが寄せられる。


 同接は現在200人越えたあたり。このフルダイブ型のゲーム配信としては少ない方だ。


「ありがとう、アイラスたん。このアイテムは大事にアイテムボックスに締まっておくとしよう」


≪おいおい、はよ使えよww≫

≪出たw貰うが、使わない詐欺w≫

≪誰が「使う」と言ったんだい??≫


 荒れるコメント欄。しかし、俺は1ミリも気にしてはいない。


 俺が今にも死にそうな状態にも関わらず回復しないのは、わざとだからだ。アイラスたんはNPC。彼女は新参プレイヤーをガイドする立場である。


 アイラスたんから一通りのレクチャーを受けた人間は、チュートリアル終了後に別行動になる。独りで、この広大なゲームの世界を自由に旅するようになる。好きな剣や杖、盾や防具等を購入して装備をしたり、新たにジョブを選択することも可能だ。


【本来であれば】


 だが俺は、未だにアイラスたんと【チュートリアル中】であり、レクチャーを受ける為に支給された初期装備以外を使用することば出来ないのだ。


 火力がない初期装備品は心許ないのは事実。代わりとして、俺にはアイラスたんの素敵な声という神サポートクラスの施しを受けているので問題はない。


「……ポーションはお使いいただけましたか? 以上で、チュートリアルの説明は終わりです。頑張ってください、ね?」

「……いや、今日も君がいないと、俺は頑張れない」


「私は、チュートリアルナビゲーターの『アイラス』です。以上で説明は終わりです。頑張ッ……」

「アイラスたん。今日も君が傍にいないと頑張れない、人間おっさん。俺のキャラ名はNo nameだから気軽に【ネム君】って呼んでほしい」


 しかし、アイラスたんは、キョトンとした表情を俺に見せたまま。相変わらず俺の事を【ネム君】とは呼んではくれない。


 何故なら、チュートリアルをレクチャーする専門のNPCであって、個別に名前を呼んでくれるようプログラムされていない。


 代わりにと言ってはなんだが、俺の目の前にアイコンが表示されており、【はい】の文字が怪しく光っている。


 このボタンを押せば、初心者用チュートリアルが終了することを意味し、アイラスたんが、この場から消えてしまうことを俺は知っている。


 だから、俺はこのボタンを押さずに、今日まで6ヶ月間、ずっとアイラスたんと行動を共にしてきた。


 チュートリアル中であれば、アイラスたんが同行してくれる事となっており、ダンジョン内にある薬草の見分け方やモンスターの狩り方等をレクチャーしてくれる。


 アイラスたんに同行してもらうには幾つかの制限が存在する。


 その中で最も俺を悩ませているのは、俺自身もチュートリアル用の初期装備を身に付けなければならず、他に装備を装着することが出来ない点だ。


 アイラスたんから貸与されるチュートリアル用初期装備は、アイラスたんを起動するセンサーと連動しており、違う武器を装備した段階でアイラスたんとの案内契約チュートリアルが終了。アイラスたんを製造している会社に帰還してしまう設定システムとなっている。


 当たり前と言えばそれまでだ。チュートリアル中では初期装備で十分だからである。


 そして、今はだけは初期装備ではなく、強い武器を手にしたいと心から願ってしまう。


 何故なら……


「ギャォオオオオ!!」


 目の前にはオレンジ色のワイバーンがいる。奴はこのダンジョンの第4層を統治しているモンスター『ヴィーヴル』。鋭い眼光と鋭利な爪がご自慢の厄介な相手である。


 そう……。俺はついにここまで来れたのだ。長い、長い道のりだった。


≪やばw≫

≪大型アプデ直前で最下層初クリア者に?!≫

≪初期装備で地下4層とか盛大に草≫

≪チュートリアル娘たん早く逃げてw≫

≪誘拐が過ぎるぞ、もっとやれw≫



 生配信のコメント欄が本日も盛大に荒れていた。俺は外野の言葉には流されない。だが、配信機能はONのままにしている。


 人々がこのダンジョンを潜入する目的も時の流れと共に徐々に変化してきた。世界中でこのゲームが大流行して以降、レアな武器やアイテムが現実世界で高値で取引されるようになった。


 高値で取引される追い風になったのは今後行われる大型アプデの影響だ。詳細は不明だが、ダンジョン追加や新しいフィールドの拡張等、この世界がいっきに拡がる予定。


 現時点では、このゲームは試作版という位置付けでありダンジョンも第4層までしかない。


【試作版とはいえ、4層までしか実装されていない】点は物足りなさを感じるプレイヤーが出ても不思議ではない。しかし、異常な難易度設定と、異世界に迷い込んだかのような非リアルの世界観。そして没入感が人気を呼び、このゲーム【ホロ・オンライン】はフルダイブ型ゲームの一角を担うまで急成長した。


 またこのゲーム内のアイテムや武器が譲渡や販売機できるアプリも登場し、一攫千金を求めて軽い気持ちで潜入する者も増え、注目度は鰻登り。


 このゲームをプレイしている様子を生配信して広告収入を得ようとする者さえ増えてきた。俺もその1人。


 しかし、俺は広告収入などには興味がない。俺がわざわざ配信する理由は簡単。


『アイラスたんの声が可愛い』と言うことを全世界に知らしめたいからであるっ!!

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