第2話・あの言葉の意味

まだ1回しか会ってない。


しかも駅まで20分を一緒に歩いただけなのに、もう付き合うことになってしまった。


どんな顔してたっけ?メガネをかけてたのは覚えているけど、ちゃんと顔をマジマジとは見ていなかっただけにハッキリと顔は覚えていなかった。


更に翌日、俺がいる倉庫とは別の場所に夜勤で行くというので、その前に食事をしようとなり蒲田で待ち合わせをした。


彼女が指定した居酒屋の前で待っていると、そこに黒塗りのベンツが停まっていて、中に1人いかにもな男が運転席に乗っているのが分かった。


ん?美人局?


一瞬、そんなことが頭をよぎった。


いや、彼女がそんな女なわけない。


そんなことを考えていると、跳ねるように歩み寄って来る彼女が目に入った。


俺と目が合うと笑みを浮かべた。


そして俺はすぐにベンツの中を確認するように見てみた。


運転席の男はブスッとふんずり返っていた。


「オツカレサマデース!」


彼女がハキハキとした口調で言ってきた。


とりあえず店に入る。


向かいに座った彼女が屈託のない笑みを浮かべている。


初めてじっくりと彼女の顔を見た。


やはり全然タイプではない。


なのに何で気になったのだろうか。


倉庫作業の夜勤にはこれまで何度も女性は来た。


可愛い大学生や綺麗なOLも。


そんな時は積極的に話しかけてはLINE交換までしていたが、それは当然ながら下心アリアリでのこと。


それに対し、今目の前にいる彼女にはまだ恋愛感情は薄い。


全くタイプではないのだから。


それでも、あの夜は何故か彼女の存在が気になった。


なぜだろう。


自分でも不思議だ。


これが前世の記憶?


魂が覚えているってこと?


何を?


彼女を?


そんなことを考えてしまう。


彼女は酒を飲まない。


仕事の前だからというわけでもないらしい。


寿司とか魚が好きと言っていたので刺身や握り寿司を注文したのだが、彼女はあまり食べないので「遠慮しないでもっとバンバン食べな」と言うと、彼女は「ハイ」と言って笑みを浮かべていたが、「ワタシビョウキナノ」と。


「えっ?」


「ナンビョウナノ」


「難病?」


突然の重い告白に一緒驚いたが、彼女が常に屈託のない笑みを浮かべながらサラッと言うので、俺はそんなに深刻に受け止めなかったというか、彼女が意を決して打ち明けたのだろうと思い、驚いているのを悟らせないよう平静を装った。


彼女は激しく折り目のついた障害者の書類らしいものを出して「コレワカル?ワタシノビョウキ」


見ると、そこには脊髄小脳変性症とあった。


「知らないなあ」


「マエニドラマアッタヨ」


「そうなの?」


「ウン」


衝撃的だった。


時間になり彼女が仕事に行くバス停まで行き、バスが来るまで一緒に待った。


「あ、優里恵って呼ぼうか」


「アナタハナンテヨブ?」


「呼ぶ?」


「サワムラサン?」


「ああ、しょういちだからショウでいいよ」


「ショウ?OK!ショウ!」


「てか、俺の年まだ知らないよな?こんなオッサンでいいの?」


「アナタオッサンジャナイヨ」


「ジジイだよ。58歳だから!」


「フィフティーエイトゥ?」


「うん」


「ホント?」


「本当だよ」


「アナタワカイネエ!」


「若くないよ!」


「ワカクミエルカラ」


「俺でいいの?」


「トシハカンケイナイネ」


だそうだ。


この時、俺は嫌われるのを待っていたのかも知れない。


バスが来て彼女が乗り込むと、座席からニコッとしながら手を振ってくる。


バスが走り去ると、俺は歩きながら脊髄小脳変性症を検索してみた。


すると、そこに書いてある症状はショッキングなことが書いてあるだけでなく、今の医学では完治しないとまで書いてある。


病気の進行はゆっくりだが、長生きはできないようなことも。


ショックだった。


それなのになぜ?彼女はあんなに明るいのか。


また、初めて会った日に俺が「何か夢でもあるの?」と聞いた時、「イキテルダケデジュウブン」とサラッと言い放った時のことを思い出した。


生きてるだけで十分。


あの言葉の意味・・・そうだったのか。


思い出した瞬間、俺の目から涙が溢れて暫くの間電車に乗ることが出来ないでいた。


〜つづく〜








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無邪気なしあわせ 簗田勝一(やなだしょういち) @noelpro

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