無邪気なしあわせ

簗田勝一(やなだしょういち)

第1話・イキテルダケデジュウブン!

午前中0時、宅配荷物の物流倉庫。


俺は今年で58歳になるが、もう5年もここで派遣社員として働いている。


夜勤は深夜0時から朝8時まで。


仕事が始まる時間まで早く来た者は2階の休憩室で着替えをする者はして、それぞれ自由に待機をしているのだが、その日は女の子が独りポツンと座っているのが目に入っていた。


時間になって休憩室を出る時、「おはようございます!」と、元気な声で挨拶をされ振り向くと、その女の子の笑顔があった。


「あ、おはようございます」と、俺は挨拶を返して自分の持ち場に下りて行った。


3時の休憩までに2回トラックが荷物を運んで来るので、その度に荷物が入ったコンテナをみんなでトラックから引っ張り出し、各地域ごとに仕切りをしてある所まで運ぶのだが、初めて来た女の子は少し離れた所からその様子をポツンと見ている姿が何となく気になっていた。


それは初めて来た女の子には重くて危ないから見ているだけで全然いいし、女性が来ることも珍しくないのだけど、なぜかその子の存在がただ気になっていたのだ。


女性でも若い学生からおばちゃんまで幅広い年齢が来るし、その子は別にタイプなわけでもないのに・・・。


3時の休憩になると、7人の派遣社員はまた2階の休憩室に上がって食事をする者や、寝る者など自由に過ごしている中、その女の子は隅の席で何か食べる様子もなくただポツンと起きて座っているのが目に入っていた。


持ち場が違うのでその子の姿は見えないがトラックが来た時だけは、俺達がコンテナを引きずり出す様子を見守っている姿が目に入っていた。


8時に仕事が終わると、仲間と外でタバコを吸いながら雑談をして帰るのがお決まりのパターンなのだが、その横を「お疲れ様でした!」と、ハキハキした口調で女の子が帰って行く。


ここは駅から遠いトラックターミナル内の倉庫で、初めて来た人はここから抜け出すだけでも迷ってしまう。


少し間が空いてしまったが、縁があれば女の子に追いつくかなと思った俺はタバコを消して歩き出した。


すると20m位先に女の子の後ろ姿が目に入ったが、早歩きするとストーカーみたいで嫌だなと思い、追いつかなければ追いつかないでいいかと思いながら歩いていると、意外とすぐに追いついてしまった。


後ろに俺の気配に気づいた女の子が振り向いたので、「帰り道分かるか?」と、聞いてみた。


すると笑みを浮かべながら「ワカンナイ」と。


この時イントネーションに違和感があったので、「留学生?」と聞くと、「チガウ、ハーフ」と。


留学生も男女問わずよく来るので驚きはしなかった。


「どこまで帰るの?」


「カマタ」


「蒲田かあ、京急?JR?」


「ワカラナイ」


「住所分かる?何丁目?」


「ニシカマタ」


「あ、じゃあJRだな。俺は逆だけどJRだから駅まで一緒に行こう!」と、女の子と最寄り駅まで一緒に帰ることにした。


驚いたことに、まだ二十歳前後だと思っていた彼女はもう31歳だった。


父親が日本人で母親はフィリピン人だというが、2歳の時に両親が離婚をし高校卒業までフィリピンで暮らしていて、今は母親と蒲田で2人暮らしだと話してくれた。


そして名前は工藤優里恵。


母親とは違い日本国籍だった。


ハーフと言うが、彼女の容姿は細いというかガリガリで背も低い。


それなのに宅配荷物の仕分けという肉体労働に来るには何か訳でもあるのかなと思い、ふいに「何か夢とかあるの?」と、聞いてみた。


すると彼女は少し笑みを浮かべながらも控えめな感で「イキテルダケデジュウブン!」と、サラッと答えた。


さんまみたいなこと言うなと思いながらも、駅までの20分間を日本の好きな食べ物を聞いたりと、たわいもない話をして歩いているうちになぜかやはり彼女のことが気になり、日本語の読み書きも出来ると言ったのでLINEを交換しようと言ってみたらあっさりと交換してくれた。


駅の改札を通り階段を降りて振り返ると、彼女がいない。


あれ?Suicaにチャージでもしてるのかなと思って今降りて来た階段に目をやると、手すりに掴まりながらゆっくり降りて来る彼女が見えたので、自分が乗る電車を見送って彼女を待った。


そして丁度いいタイミングで彼女が乗る電車が入って来たので、「これ蒲田行く電車だからこれに乗りな。俺は逆だから、じゃ気をつけてね!」


「ハイ、アリガトウゴザイマシタ」


電車の中から笑顔で小さく手を振る彼女を見送り、自分が乗る電車が来るのを待ちながら、どうせLINEなんて来ないだろうなと思うのだった。


ところが、電車に乗ってすぐスマホがブルった。


見ると彼女からのLINEだった。


早っ!別れてまだ5分も経っていない。


(今日はありがとうございました)


あ、普通に日本語で書けてる。


この日、家に着いてからも彼女はすぐに返信して来るので会話が止まらず、結局は昼過ぎまで2人はLINEで話をしていたほど親しくなっていった。


翌日もLINEで話をした。


寒い日だったので、(こんな日は彼女がいれば手を繋いで、俺のポケットに入れて歩きたいな)と送ると、(沢村さんの彼女になった人は幸せですね)と返信が来たので(じゃあ俺の彼女になる?)と、軽い気持ちで送ってみた。


すると(こんな私でよければ)と返って来たからびっくりである。


27歳差の彼女が出来てしまった。


こうして2人は付き合うことになるのだが、その直後に彼女の口から衝撃的な事実を知らされることとなるのだった。


〜つづく〜










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