ほぼ水で、ほぼ野球部
沙知乃ユリ
ほぼ水で、ほぼ野球部
暑い。喉が渇いた。水が飲みたい。ほどよく冷えた水をバケツいっぱい飲みたい。今ならおかわりもできそうだ。プールでもいい。プールに頭の先まで浸かって心地よさに溺れたい。
おれは水のなかで完全に力を失い、漂い続ける自分を想像した。
そういえば人間の八〇%は水でできているらしい。それって、ほぼ水ってことなのか。水が考えて水がメシを食って水が水を好きになって、水が水を生むのか。なんだか不思議だな。
いや、まて──たぶん残り二〇%が大事なんじゃないか。
果たしてそうだろうか。三〇人の教室で二四人が野球部だったら、そこはほぼ野球部といって良いだろう。2-Aは野球部だよ、と言っても過言ではない。
残りの六人が手芸部、サイクリング部、数学部、セパタクロー部、テニス部、軽音部だったとして、それが重要な役割を果たすだろうか? 否である。丸坊主の野球部が、主なのだ。
野球部が考えて、野球部がメシを食って、野球部が野球部を好きになって、野球部が野球部を生む。うん、間違ってなさそうだ。
はあ。喉が渇いた。野球部を飲みたい。
カン。グラウンドから金属音がした。冷たい汗が一本の心地よさを背中に刻んだ。
野球部を飲みたいおれは、もうほぼ野球部だ。
背番号つきのバケツを一息で飲み干せば、俺の中でカン、と点数が入る。
気付けば俺の皮膚は日焼けし、頭は丸められ、息すら砂埃だった。
世界はすでに、ほぼ水で、ほぼ野球部だ。
今日も俺は、自分の喉の渇きに向かってフルスイングする。
いつか──俺ごと野球部に飲まれるまで。
ほぼ水で、ほぼ野球部 沙知乃ユリ @ririsky-hiratane
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