異世界行商人
ささみさま
第1話 エルフの森
ここは人里離れた深い森の中、私は完全に参っていた。
遠く離れた的にも正確に射る事が出来る弓の腕があり、いくつもの魔法を覚え沢山の魔物を狩ってきた。
仲間達からは次期族長と持て囃されている。
だがしかし、数年前より山の尾根に羽根のはえた魔族どもが住み着きだした。それ以来たびたび、襲撃を受けている。
今までは何とか撃退できていたが、ここ最近は熱病が流行りだし多くの者が倒れ亡くなる者も出てきた。
この状況で襲撃を受ければひとたまりもない。
ドンドンドン!ドンドンドン!
「ウィスペル!ウィスペルは居るか!」
何やら騒がしくドアを叩く音が聞こえる。
私はドアを開け尋ねた「どうしたペタル、そんなに慌てて」
「グリデが倒れた!熱病だ!」
どうやら木の実を取りに行ったまま帰って来ず、探しに行ったところ倒れていたようだ。
私とペタル、その妹のグリデは幼馴染で共に遊び、学び、いくつもの苦難を共にしてきた。
私は支度をし急いてペタルの家へ向かう。
部屋に入るとグリデは熱にうなされうわ言のように私の名前を呼んでいる。
「ウィスペル⋯ウィスペル⋯」
私は回復魔法を唱え、グリデの手を握り
「ここに居るよ」と声をかけた。
安心したのか静かな寝息をたて眠っている。 「目がさめたらこれを飲ませてやってくれ」
私は薬草を煎じた物をペタルに渡し部屋を出た。
翌朝、水を汲みに井戸へ向かう途中、何やら広場の方で何やら騒がしい声が響いた。
人だかりができており、何やら見慣れないおかしな格好をした小太りの人間の男を守り手が取り囲んでいる。
「怪しいもんじゃないんですよ。私は行商人です。良かったら商品見てって下さい」
なるほど、確かに男は荷車を引いており、中には見慣れない物が沢山乗っている。
男は台を置き品物を並べ始めた。
「こちらは渇いた身体を素早く潤す水、疲労した身体を癒すゼリー、そしてこれが熱冷ましの薬です」
私は驚いてしまった。この男が持ってきたそれはまさに今、この里に必要な物である。
しかし、人間の立ち寄らないこの森の中怪しい男、見たことのない怪しい品物の数々。
「良かったらこちらお試しにどうぞ」と守り手の一人に水を渡した。
水は濁っており、容器はガラスのようだがペコペコと柔らかいようだ。見たことのない文字のような物が書かれた透明な紙が巻かれている。
渡された守り手は恐る恐る口にする。
「甘い!うまいぞこれ!」そう言うとゴクゴクと喉を鳴らし勢いよく飲み始めた。
「俺にも飲ませてくれ」隣の守り手が奪い取り口にする。
「確かにうまい!なんだこれは!」
「良かったらこちらもお試し下さい」と何か金属のような色の紙に入ったゼリーなる物を守り手に渡した。
「口にくわえ絞り出して下さい」
渡された守り手は口くわえ絞り出す。
「これもうまい!甘酸っぱい果実のようだ!」
「俺にも味見させてくれ!」と守り手同士で水とゼリーなる物を奪い合いを始める。
最初に水を渡された守り手が水を売ってくれと言うとドンドンと水とゼリーは売れ始めた。
「熱冷ましをくれないか?」私は藁にもすがるような気持ちで聞いた。
「はい、こちら大人は二錠子供は一錠、朝昼晩の食後に飲んで下さい」と言いながら紙の箱を渡される。
「熱で失われた水分補給に水、疲労した身体にゼリーも併せて使うと良いですよ!」
なるほど、商売上手である。
「それも頂こう」
怪しい薬だがもしかすればグリデを助けられるかもしれない。私は急いでペタルの家へと向かった。
部屋に着くとグリデは目を覚ましており、か細い声で言う。
「ごめんなさいこんな時に私まで⋯」
優しいグリデの事だ、魔族の襲撃や熱病による被害に心を痛めていたのは知っている。
「大丈夫だ、謝らなくていい、ウィスペルが薬を買ってきてくれたぞ」
私は箱を開け中に入っていたガラスの瓶を取り出す。金属の蓋をあけて二錠の薬を飲ませた。
これで良くなると良いが⋯
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます