家族に捨てられた転生令嬢ですが、突然呼び戻されて政略結婚させられることになりました。〜田舎娘とバカにする夫を、愛用のナタと短弓、そして渾身の貴族令嬢ムーブで魅了します〜

荒火鬼 勝利

第1話 親ガチャ当たりかと思ったら、山に捨てられました


「私……赤ちゃんになってる!?」


 意識が覚醒した瞬間、私の体は、以前とは全く違う、ふよふよとした感覚に包まれていた。


 前世の私は、どこにでもいるごく普通のOLだったはずだ。


――どうしてこんなことに!?


 しかし周りを見ると、視界に飛び込んできたのはふかふかの天蓋付きベッドと、上質な絹の衣装をまとった親らしき男女。


 彼らは私をそっと抱き上げると、優しくあやしてくれる。


――これは、どう見ても裕福そうなご家庭だ! もしかして親ガチャ大当たりなのでは!?


(……前世はつらいことばかりだったけど、今度はきっと、バラ色の人生が待ってるに違いないわ!)


 希望に胸を膨らませた私は、再び心地よい眠りへと誘われるのだった。



 ◆ ◆ ◆



 ガサリ、ガサリと森の木々が揺れる。


 麻布の簡素な服をまとった私は、まるで風に乗るように、森の枝葉の上を軽快に駆け抜けていた。


「姉さん!そっち行った!」

 私が大声で、姉さんの方向に獲物が逃げていった事を知らせると、


「分かった、任せて!」

 姉さんから安心感のある 答えが返ってくる。


 私から少し離れた場所を走っていた姉さんは、走りながら短弓を構え、獲物を狙って即座に撃つ。


 矢は吸い込まれるように、逃げる鹿の首筋に命中し、鹿は前のめりに倒れた。


 起き上がろうともがく鹿に、私は間髪入れず、手に持った短弓で止めの一矢を放つ。


 矢を二本も打ち込まれた鹿は、しばらくもがいた後に、やがて動かなくなった。


「「いえーい!!」」


 二人で顔を見合わせ、満足気にハイタッチを交わす。


(これで、1週間はお肉を食べられるわ!)

 そう考えると自然と笑みが浮かんでくる。


 私は今、山奥の小さな村で暮らしていた。


 周りを深い森に囲まれ、生活は質素で厳しい。


 男女問わず、皆が狩りに出ることができるのが当たり前の、狩猟民族のような暮らし。


 はじめこそ、その原始的な生活に戸惑ったものの、気づけば数年が経ち。


 今やこの生活にもすっかり慣れ、私は村の女性の中では三番手の弓の使い手となっていた。


 ちなみに一番は姉さんだ。


 姉さんとはいっても、実の姉ではない。


 私が幼い頃、両親がいない私を甲斐甲斐しく面倒を見てくれた人で、その時の名残で今も「姉さん」と呼んでいるのだ。


 この山での暮らしは過酷だが、私はそれなりに満足していた。


 厳しくも美しい自然に囲まれ、自分の力で生きているという実感が、前世の無味乾燥な日常とは比べ物にならない充実感を与えてくれている。


 そんなある日のこと。

 村に、偉い人がやってくるという話が舞い込んできた。


 私には関係ないと思っていたのだが、どうやらそのお客様の相手をしなければならないらしい。


 村長に命じられ、私は渋々、いつもより少しだけマシな服に着替え、髪を整えてもらった。


 おめかしした私が客の前に出されると、そこにいたのはいかにも偉そうなおじさんだった。


 上等な服を着ているが、身体はひょろっとしていて、腕なんて村の女性用の短弓すら引けそうにない細さだ。


(こんな人が何の用だろう?)

 私が不審がっていると、おじさんは口を開いた。


「お嬢様、お迎えに上がりました」


 驚くべきことに、私は貴族のご令嬢であり、とある事情からこの山奥の村に「預けられていた」のだという。


 そして、「結婚相手が決まったから、屋敷に戻ってこい」と。


 ああ、そうか……。


 赤ちゃんの頃のふかふかのベッドの記憶は、そういうことだったのかと、私は遠い目になる。


 要するに、不義理で出来た子供を田舎の村に捨てたが、貴族間の政略結婚の駒として利用価値ができたから、今になって回収しに来たということだろう。


 おじさんの顔には、私を連れ戻すのが当たり前だと言わんばかりの、傲慢な雰囲気がにじみ出ていた。


(あーあ。せっかくこの生活も楽しくなってきた所だったのに……)


 小さかった私を捨てて、必要になったら今更引き取りにくるような親だ。


 とても、愉快な未来は期待出来ないだろう。


 とはいえ。私が駄々をこねたところで、事態が良くなるとは思えないし、私一人のために村が動いてくれるとも思えない。


「はい……わかりました……」

 不承不承ながら私は答えた。


「おお……。よくぞ決断なされた、さすが旦那様の御息女ですな」

 おじさんが笑みを浮かべる。


 だけど、その目には私を下に見ている気持ちがありありと表れていた。


(見下してるがバレバレなのよ。せめて上っ面だけでも取り繕いなさいよ……)

 不満はあるが文句は言えない。


 私の立場はそれだけ弱いのだから。


「おいっ! お前、何を――ぐああぁっ!」

 そんな時、外から叫び声が聞こえた。


(……ああ。1人だけいたわ、村よりも私のために動いてくれる人……)


 ドアを蹴り破り、何者かが転がり込んでくる。


「アリー! 無事!? 一緒に逃げるよ!」


 短弓を構え、鬼のような形相で飛び込んできたのは私の姉さんだった。


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