高層ビルの激しい暴走

ちびまるフォイ

人間の作り出せし魔物

ドシン……。ドシン……。


「おい、あれ……」


「び、ビルだ!! 高層ビルだーー!!」


出勤したサラリーマンは空を見上げた。

高層ビルが決まった住所から動き出し郊外へと移動していた。

足元の道路や信号機をなぎ倒しながら。


その姿はまさに怪獣そのもの。

人間の文化を踏み砕きながら高層ビルが暴れていた。


「軍を出動させます!!」


偉い人の指示により、街で大暴れする高層ビルの爆破作戦が実行となった。

周辺住民の人たちは避難指示をうける。


「ターゲット、きます!!」

「高層ビル・〇〇イーストタワーです!!」


「撃てーー!!」


ミサイルの発射ボタンが押されようとしたそのとき。

高層ビルは上体をよじってから、思い切りそれを戻す。


強烈な突風「ビル風」が待機していたヘリや戦闘機を吹き飛ばした。


「うわあああ!!」


地上待機していた戦車すらも横転しておシャカ。

ビルたちは街を破壊し続けていた。


煮え湯を飲まされた軍の人たちは作戦本部で落ち込んでいた。


「くそ! 高層ビルがこんなにも手強いなんて!」


「柱を爆破とかできないんですか?」


「近づいたらあの突風で吹き飛ばされるに決まってるだろ」


「もう万策尽きてるじゃないですか……」


「た、隊長!」


「どうした。今大事な作戦を話してるところだぞ」


「び、ビルが!! 高層ビルがっ……家族をいとなみ始めてます!」


「なんだって!?」


街をめちゃくちゃに破壊したビルたちは、

やがてお互いに寄り添いあうとツインタワーになった。


その足元からは小さめ高層ビルが生まれてすくすく育っている。


「なんてことだ。このままじゃ高層ビルが増え続けてしまう!」


「ミサイルも爆弾もダメ。もうどうすれば……」


「あの、隊長。ひとつ進言しても?」


「なんだ? とっておきの作戦があるのか?」


「いえ、そうではなく……。ひとつ気になったことが。

 うちの近くにも高層ビルがあるんです」


「そうか。それじゃきっと暴れて大変なんだろうな。気の毒に」


「いえ、うちの近くの高層ビルは暴れてないんです。おとなしくて……」


「こ、高層ビルなのに暴れてないやつがいるのか!?」


「この差はなんなんでしょう……」


「すぐに軍を派遣しろ! ここに突破口があるぞ!!」


すべての高層ビルが命をもって暴れたものと思っていた。

しかし一部のビルはこれまでどおり大人しくしている。


おとなしいビルとそうでないビル。

この差はたったひとつだった。


「隊長、軍の派遣が終わりました!」


「暴れないビルの特徴は? 建設会社か? 構造か?」


「いえ、そういうのではなく……テナントです」


「テナント?」


「はい。暴れてないビルは中に人が多く入っています。

 ですが暴れているビルの多くはガラガラなんです。

 人間が中にいるかいないかで暴れるかどうかがわかるんです」


「そ、そういうことだったのか!!」


人間はまるで競うように天空を覆い隠すほど高層ビルを建て続けた。

ビルの需要があってもなくてもおかまいなし。


その結果、中身空洞の立派な高層ビルが立ち並んだ。

やがてそれらは自分たちの意思を持ち、人間へと牙を向いた。


「人間が中にいれば、ビルは大人しくなるんだな?」


「はい、おそらくは」


「おい。死刑囚や囚人をここに集めろ! すぐにだ!」


「なにに使うんです?」


「人類の未来のために使う」


高層ビルが暴れる市街地のふもとに集められた囚人たち。

目的も知らされないまま「ただ高層ビルの中に入れ」と言われた。


「走れ走れ!! 逃げたら後ろから撃つぞ!」


「うわああ!」


急き立てられた囚人たちは暴れる高層ビルのエントランスに入った。

人間がビルの中に入るとしだいに高層ビルはおとなしくなった。


「本当だ! やっぱりビルが暴れる原因は無人化だったんだ!」


「隊長。これでおとなしくなりましたね」


「いいやでも次いつ暴れ出すかわからないだろう?」


隊長はボタンを押した。

囚人たちにこっそり取り付けていた爆弾が爆発。

ビルを足元から倒壊させた。


「なにしてるんですか!? 中に人がいるんですよ!?」


「バカ言え。中に人がいないとビルがまた暴れるだろう?

 おとなしいうちに爆破しなくちゃならん。

 高層ビルをやっつけるには、人を送り込んでから爆破。これっきゃない」


「こんなの人じゃない……」


「これをしなくちゃ市民を守れないんだよ」


囚人によるカミカゼ爆破作戦はきわめて有効だった。


戦車や戦闘機には牙を剥く高層ビルでも、

自分の中に入ろうとする人間をビル風でこばむことはなかった。


囚人のストックが尽きたらホームレスや、

SNSで適当に集めた人間を高層ビルに送り込んで同じように爆破した。


ついに暴れる高層ビルのすべてを仕留め終わった。


「隊長、すべての高層ビルが倒壊しました」


「長かった……。多大な犠牲を払ったが、これで人類は守られた。

 これからは身の丈に合わない高層ビルの乱立を防がないとな」


今回の高層ビルによる大反乱をきっかけに、

人が入る予定もないのにバカ高い高層ビルを建てるのは禁止された。


必要に応じた階層で、必要に応じた数の高層ビルが建てられた。

高層階でドヤりたがる人たちはさぞ悲しんだという。


未曾有の大災害が収まると、サラリーマンはまた日常に戻る。

いつもの時間に起きて、高層ビルへと向かう。



『まもなく、1番線に電車がまいります』



アナウンスとともに電車のホームに風を切る音が聞こえてくる。

これに乗り遅れまいと、社会人たちは列をぎゅっと詰めた。


電車が近づく。


プァーーン!!


けたたましい音とともにホームへ電車が入る。

スピードがまるで落ちない。


停車させる気もないもうスピードでホームをかけぬけた。


遠ざかる電車の後ろ姿を見送りながら、サラリーマンはぽかんとした。


「え……? と、停まらなかった……」

「回送じゃない……よな?」


無人で暴走する電車はやがてレールすら逸脱し、

踏切をぶっちぎり住宅街をぶち壊しながら進んでいく。


まもなく軍には速報が伝えられた。



「隊長!! 今度は電車が意思をもって暴れてます!!

 決まったレールを走るのはまっぴらだそうです!!」

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