その化学は宗教へと至る

山坂良樹

第一部 序章:化学原人の決意と、魔術社会の限界

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行き過ぎた化学は、時として魔法のようである。


忙しい仕事の合間を縫って進める、機関紙の原稿作業中、ふと、そんな言葉が頭に浮んで沈んだ。


裸電球が、私の頭の上で煌々と照らしている。

少し前までは、魔法を用いる事でしか得ることができなかった恩恵だ。


この世界はそんな魔法の恩恵にあやかり、急速に文明を発展させてきた。

しかし私は一度、その恩恵の手を振り払った。


私は幼い頃、母が生み出した小さな魔法の水玉に魅了された。

太陽に照らされ、不規則に煌めく光景に、幼い私の心臓が高なった。


それから親や周囲の助けも借りつつ興味の赴くまま、魔術を学び吸収した。

時々魔道具の分解に失敗して、爆発を起こしたりしたけど、それでも止めなかった両親には感謝しても、しきれない。


そんな魔術に対する興味は、そのまま魔術研究へと向かい、親の勧めで国立魔法研究所付属学園へ入学した。


……そして入学から1年が経ったころ、私は魔術社会の限界は近いと確信した。


そして、愛する魔法を一度忘れて考えた。

『火を得る方法はないか』と。


当然すぐに見つかることはなかった。

いや、当然すぎたのだ。

薪を燃す炎、川を流れる水、草木を撫でる風、蹴飛ばされる石……

皆『当然すぎる存在』が故に、目の前に答えがあったにも関わらず、気づくのに時間をかけてしまった。


しかし、古来の魔法もそうだったのかもしれない、と、今になっては思う。


私は魔法が好きだ。

私がかつて発見し確立させた、化学も好きだ。

魔術社会の発展を止めないためにも、化学の普及は必ず必要になる。


その過程として、化学を宗教に仕立て上げられたり、教祖に祭り上げられたのは、今でも正直不本意ではあるれど……

結果としてたくさんの協力を得られたり、化学技術に関する成果が挙げられた事を考えれば、この道も間違いではなかったのかも知れない。


私を照らす化学の光源から、私が作る化学の影は見えないし、見せるつもりもない。

この魔術社会に化学の有用性を認めさせ、魔術に頼らない都市『化学都市』築いてみせる。


これが魔法と化学の両方を愛す、私がすべきことだから。

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