聖騎士の救世主様

東井タカヒロ

最果ての少女

 天から送られる白い結晶が頬冷やす。

 彼女は白銀に染められた世界でただ1人、泣いていた。

 「お兄ちゃん、お父さん、お母さん……」

 枯れた木々が落ち、焼けた死臭が生臭くなる。

 少女は焼け落ちた村でただ1人、泣くことしかできない。

 「私が、私がもう少ししっかりしていれば…………」

 ただの魔物に滅ぼされた村。

 そう、ただの魔物に。

 

 冒険者もおらず、魔法使いもおらず、あまつさえ、魔術師もいないこの村は一夜にして地図から消えた。

 そして、彼女だけが生き残った。

 

 蹂躙と呼ぶにはあまりにもあっけないほど早く終わったそれは、少女の心に陰りを灯す。

 「なんで、魔物がこんな所にいるの?私が呼んじゃったのかな?」

 彼女はただ自分を責め続ける。


 「大丈夫かい?お嬢さん」

 

 そんな彼女の前に現れた彼は、雪のような白髪に、聖騎士の証である赤い制服を着ていた。

 白銀の世界にポツンと異様に目立つその姿は少女の目を奪うには十分だった。

 

 「みんな、魔物に殺されて、私だけ生き残って、私が悪いの」

 「大丈夫、大丈夫だよ。僕が来たよ」

 

 彼の名はジルチア。

 無名のただの聖騎士である。

 しかし、少女の目には自分を救いに来た王子様、あるいは救世主に見えていることだろう。

 

 「本当に?」

 「あぁ、僕が君を守るよ」

 

 そういう彼の足がすくみ、手が小刻みに震えていた。

 だが、彼は少女の手を取り、瞳を見つめながら安心させる。

 「平気さ、聖騎士のお兄さんがなんとかするさ」

 聖騎士に憧れて、聖騎士になった彼は少女の何者かになることができたのだろうか。

 

 安堵からか、少女はこと切れたかのように聖騎士の腕の中で眠ってしまった。

 この2人が紡ぐ恋物語は、また別のお話。

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聖騎士の救世主様 東井タカヒロ @touitakahiro

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