最終章 エピローグ
控室に帰ったまちこは、国太郎に押されて、車椅子のさくらが入ってきた。そして母・雅子もその後ろから付いて来て、親子三代の歌人が揃っていた。小野まちこは決勝を前に少し緊張している。その時スマホが鳴り、出ると父の声だった。
「まちこか?父さんテレビ見て興奮したぞ。お前が勝つとわかっていたが……」
「父さん、まだ終わってないの、これから決勝戦があるのよ。ちょっと待って母さんと代わるから」さくらは穏やかに微笑む。雅子は深呼吸して、スマホを受け取る
「……もしもし、あなた……、あの……私、歌をやめようと思うの、ごめんなさい……」
その言葉に、控室の空気が少しひんやりと緊張する。
まちこはすかさずフォローした。
「父さんは、冗談抜きで母さんの相聞歌を待っているはずよ。私もまだ教えてもらいことがたくさんあるし……」
隅から、国太郎のしわがれ声がひょっこり響く。
「わしも待っているぞ、さくらさんの相聞歌を」
さくらは少し微笑み、まちと視線を交わす。
そしてさくらが、国太郎に向かって静かに告げた。
「あなたの挽歌は、もう用意してあります」
控室はしんと静まり返る。まちこと雅子はお互いに顔を見合わせ微笑む。そのとき雅子の心が決まった。舞台にはもう戻らないかもしれない。
〈雅子・心の声〉
「家族の中には、勝ち負けや技巧以上の暖かさがある……これが、私の歌を止められる理由かも」
三代の歌物語は、家族の絆と歌の余韻を残して、静かに幕を閉じた。
女王小野雅子外伝 宿仮(やどかり) @aoyadokari
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