第三話 代償

その夜、森で雨が降った。


濡れた身体が、

急速に熱を奪われていく。


肩の傷が膿み、

熱が出た。


「……動け……」


動かなければ死ぬ。

分かっているのに、足が言うことを聞かない。


そこへ現れたのは――人間。


武装した男が二人。

盗賊だった。


「ガキだな」

「金にはならねぇが……暇つぶしにはなるか」


コウは立ち上がろうとした。

だが、剣術弱では足りない。


一撃で殴り倒され、地面に転がる。


肋が折れる音。


「……ぐ、あ……」


死が、すぐそこにあった。


その時、

頭の奥で“あの声”が囁く。


――喰え。

――生きたいだろう?


恐怖と嫌悪がせめぎ合う。


「……まだ……死ねない……」


盗賊の一人が、

コウの顔を踏みつける。


その瞬間、

少年は歯を剥いた。


腕に噛みつく。


「なっ――!」


――――――――――

【喰種 発動】

【対象:人族】

【スキル《体術弱》《耐寒微》を獲得】

――――――――――


だが、代償は大きかった。


意識が飛ぶ。


世界が暗転し、

コウは泥の中で倒れたまま動かなくなった。


心臓は、かろうじて動いている。


――生きてはいるが、

英雄には、まだ程遠い。


少年の誕生は、

血と瀕死の中で成された。

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才能無しは喰らって生きる ~Level0少年コウ、未発見スキル【喰種】で英雄へ至るまで~ @into2214

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